
「チルゼパチドって肥満症にも使えるの?」「マンジャロと何が違うの?」——そんな疑問を抱えてこのページにたどり着いた方は少なくないでしょう。
チルゼパチドは2024年12月に肥満症治療薬として日本で承認され、2025年4月に「ゼップバウンド」の商品名で発売されました。一方、同じ成分のマンジャロは2型糖尿病の治療薬です。
有効成分は同一でも、承認された適応症・処方条件・対象となる患者像はまったく異なります。この記事では、承認の経緯からマンジャロとの違い、臨床試験のデータ、副作用まで、肥満症に悩む方が知りたい情報を丁寧に解説します。
チルゼパチドが肥満症治療薬として日本で承認されるまでの道のり
チルゼパチドは2024年12月27日に肥満症の効能・効果で日本の製造販売承認を取得し、2025年3月19日の薬価基準収載を経て、同年4月11日に「ゼップバウンド」として発売されました。約30年ぶりの画期的な肥満症治療薬の登場として、医療現場から大きな注目を集めています。
海外での承認が先行し、日本での開発が本格化した
チルゼパチドは、米国で2023年11月にFDA(米国食品医薬品局)から肥満症治療薬「Zepbound」として承認されました。海外の大規模臨床試験SUMOUNTシリーズで示された劇的な体重減少効果が評価された結果です。
日本では2024年5月にイーライリリー社が厚生労働省に肥満症への適応拡大を承認申請し、同年12月に承認されました。申請から承認まで約7か月という比較的短い審査期間は、国際的なエビデンスの蓄積が後押ししたといえるでしょう。
日本での発売元は田辺三菱製薬との提携体制
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | チルゼパチド |
| 商品名 | ゼップバウンド皮下注アテオス |
| 製造販売元 | 日本イーライリリー |
| 販売元 | 田辺三菱製薬 |
| 承認日 | 2024年12月27日 |
| 薬価収載日 | 2025年3月19日 |
| 発売日 | 2025年4月11日 |
ウゴービに続く2番目の肥満症治療薬として位置づけられた
日本では2024年2月にノボノルディスク社のウゴービ(セマグルチド)が肥満症治療薬として先行発売されています。ゼップバウンドはそれに続く2番目の肥満症治療薬であり、GIP受容体とGLP-1受容体の両方に作用する「デュアル受容体作動薬」としては国内初となります。
厚生労働省は発売にあたり、肥満症に関する「使用推進ガイドライン」を策定しました。日本肥満学会や日本糖尿病学会など6つの学会の協力のもと作成されたこのガイドラインは、安全かつ適正な使用を確保するためのものです。
チルゼパチドの作用で体重が減る仕組み|GIPとGLP-1のダブル効果
チルゼパチドはGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)受容体とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体の両方に作用する「デュアル受容体作動薬」です。2つのホルモンの経路を同時に活性化することで、従来のGLP-1単独製剤を上回る体重減少効果を発揮します。
食欲を脳から抑えるGLP-1の作用
GLP-1は食事をとると小腸から分泌されるホルモンで、脳の満腹中枢に働きかけて「もうお腹がいっぱい」という信号を出します。さらに胃の動きをゆっくりにする作用もあるため、少量の食事でも満足感を得やすくなるのが特徴です。
チルゼパチドはこのGLP-1の作用を薬として再現しています。そのため、無理に食事を我慢するのではなく、自然と食欲が落ち着く感覚を多くの方が経験されています。
代謝を促進するGIPの作用が加わるメリット
GIPは食欲を抑えるだけでなく、脂肪組織に分布する受容体を介してエネルギー代謝を促進する働きがあります。脂質の代謝やエネルギー消費を高めることで、体重減少をさらに後押しするのです。
GLP-1だけに作用する従来の薬に比べ、GIPの効果が加わることで「食欲の抑制」と「代謝の促進」という2つの方向から体重にアプローチできます。臨床試験で従来薬を超える減量効果が示された背景には、このデュアル作用が深く関わっています。
週1回の皮下注射で効果が持続する
チルゼパチドの半減期は約5日間と長く、週に1回の皮下注射で安定した効果を維持できます。使い切りタイプのオートインジェクター(アテオス)を使用するため、注射針の取り付けや用量の設定は不要です。
注入ボタンを押すだけで自動的に薬液が注入される設計になっており、注射に慣れていない方でも扱いやすいと評価されています。投与の曜日を決めておけば、忙しい日常生活の中でも治療を続けやすいでしょう。
| 作用 | GLP-1経路 | GIP経路 |
|---|---|---|
| 食欲抑制 | 脳の満腹中枢に直接作用 | 脳への食欲抑制作用 |
| 胃腸への影響 | 胃排出を遅延させる | 直接的な作用は限定的 |
| 代謝への影響 | 血糖降下作用 | 脂質代謝・エネルギー消費の促進 |
マンジャロとゼップバウンドは同じ成分なのに適応が違う——その理由とは
マンジャロもゼップバウンドも有効成分は同じチルゼパチドで、用量設定(2.5mg〜15mgの6規格)も注射デバイスも共通です。しかし承認された適応症がまったく異なるため、処方される場面や対象患者は明確に分かれています。
マンジャロは2型糖尿病の血糖コントロールが主目的
マンジャロは2022年9月に日本で2型糖尿病治療薬として承認されました。食事療法や運動療法で十分な血糖コントロールが得られない成人の2型糖尿病に対して処方されます。
臨床試験では、HbA1c(ヘモグロビンA1c)の大幅な低下とともに体重減少も確認されていますが、あくまで承認上の適応は「2型糖尿病」のみです。そのため、糖尿病ではない方の減量目的でマンジャロを使用することは適応外処方に該当します。
ゼップバウンドは肥満症の体重管理が主目的
一方、ゼップバウンドの承認された適応は「肥満症」です。ただし、すべての肥満の方が対象になるわけではありません。高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかを合併し、食事療法・運動療法で十分な効果が得られないことが条件となります。
加えて、BMI(体格指数)に関する数値基準も設定されており、一定以上の肥満度と健康障害の合併がなければ処方を受けることはできません。
| 比較項目 | マンジャロ | ゼップバウンド |
|---|---|---|
| 承認された適応症 | 2型糖尿病 | 肥満症 |
| 主な治療目的 | 血糖コントロール | 体重管理・減量 |
| 承認年(日本) | 2022年9月 | 2024年12月 |
| 有効成分 | チルゼパチド | チルゼパチド |
| 用量規格 | 2.5mg〜15mgの6段階 | 2.5mg〜15mgの6段階 |
適応外でマンジャロを肥満治療に使うリスクを知っておく
SNSや美容クリニックなどで「GLP-1ダイエット」としてマンジャロが話題になることがありますが、糖尿病ではない方への処方は適応外使用にあたります。適応外使用の場合、医薬品副作用被害救済制度の対象外となるため、万一重い副作用が起きても公的な補償を受けられないリスクがあります。
日本糖尿病学会も適応外での使用に対して繰り返し注意喚起を行っています。痩身・ダイエット目的での安易な使用は避け、医学的に必要な場合に限って、適切な医療機関で処方を受けることが大切です。
ゼップバウンドの肥満症治療における処方条件と投与スケジュール
ゼップバウンドは使用推進ガイドラインの対象薬剤であり、処方にはBMI基準や合併症の有無など、複数の条件を満たす必要があります。どの医療機関でも処方できるわけではなく、専門的な施設での使用が前提です。
処方の対象となるBMI基準と合併症の条件
ゼップバウンドの処方を受けるには、高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかを有していることが前提です。そのうえで、BMI27以上で肥満に関連する健康障害を2つ以上有するか、BMI35以上であることが求められます。
さらに、食事療法と運動療法を一定期間実施しても十分な効果が得られなかった場合に限り、薬物療法の選択肢として検討されます。単に体重を減らしたいという理由だけでは処方の対象にはなりません。
週1回2.5mgから始めて段階的に増量する
投与は週1回2.5mgからスタートし、4週間ごとに2.5mgずつ増量して、週1回10mgを維持用量とします。患者さんの状態に応じて週1回5mgまで減量、あるいは4週間以上の間隔をあけて週1回15mgまで増量することも可能です。
段階的に量を増やしていくのは、消化器系の副作用を軽減するためです。急に高用量から始めると吐き気や下痢が強く出やすいため、体を薬に慣らしながらゆっくり用量を上げていきます。
処方できる施設には一定の要件がある
使用推進ガイドラインでは、処方する施設や医師にも要件を設けています。肥満症の診療体制が整っている総合病院や大学病院など、専門医が常勤している施設での使用が基本です。
一般のクリニックでは処方が難しいケースもあるため、まずは肥満症外来のある医療機関を受診して相談されることをおすすめします。副作用発現時の対応体制が整った施設で治療を受けることが、安全な使用につながります。
| 投与スケジュール | 用量 |
|---|---|
| 開始用量 | 週1回2.5mg |
| 4週後 | 週1回5mg |
| 8週後 | 週1回7.5mg |
| 12週後(維持用量) | 週1回10mg |
| 増量時(任意) | 週1回12.5mg〜15mg |
チルゼパチドの臨床試験SUMOUNTシリーズで確認された減量効果に驚く
SUMOUNTシリーズと呼ばれる複数の大規模臨床試験で、チルゼパチドは従来の肥満症治療薬をはるかに上回る体重減少効果を示しました。15mg投与群では、72週で平均約20.9%もの体重減少が報告されています。
SURMOUNT-1試験で糖尿病のない肥満患者に平均20%超の減量を達成した
SURMOUNT-1試験は、2型糖尿病のない肥満・過体重の成人2,539名を対象とした72週間の第3相臨床試験です。参加者はチルゼパチド5mg・10mg・15mgまたはプラセボ(偽薬)のいずれかを週1回投与されました。
結果は非常に印象的で、15mg群では体重が平均20.9%減少しました。これは体重100kgの方であれば約21kgの減量に相当します。5%以上の体重減少を達成した割合は、5mg群でも85%に上り、プラセボ群の35%を大きく上回りました。
SURMOUNT-2試験で糖尿病を合併した肥満患者にも有効性が示された
| 試験名 | 対象 | 主な結果 |
|---|---|---|
| SURMOUNT-1 | 糖尿病のない肥満患者 | 15mg群で平均20.9%の体重減少 |
| SURMOUNT-2 | 2型糖尿病を合併した肥満患者 | 15mg群で平均14.7%の体重減少 |
| SURMOUNT-3 | 生活習慣改善後の肥満患者 | さらに平均18.4%の追加減量 |
| SURMOUNT-4 | 減量維持の評価 | 継続投与群で25.8%の体重減少を維持 |
SURMOUNT-2試験では、2型糖尿病を有するBMI27以上の成人938名が対象でした。72週時点で15mg群は平均14.7%の体重減少を達成し、血糖値の改善効果も同時に確認されています。
糖尿病を合併している方は、合併していない方に比べて薬による体重減少幅がやや小さくなる傾向がありますが、それでも十分に大きな減量効果といえるでしょう。
治療を中断すると体重がリバウンドする——SURMOUNT-4試験が示した事実
SURMOUNT-4試験は、36週間チルゼパチドを使用した後に薬を中止するとどうなるかを調べた試験です。チルゼパチドを継続した群はさらに体重が減少しましたが、プラセボに切り替えた群は平均14%の体重増加(リバウンド)が見られました。
この結果は、肥満症が高血圧や糖尿病と同じように、長期的な治療の継続が求められる慢性疾患であることを改めて示しています。主治医と相談しながら、治療の継続・中止を慎重に判断することが重要です。
チルゼパチドの副作用と安全に使い続けるためのポイント
チルゼパチドの副作用は消化器症状が中心で、多くの場合は軽度から中等度にとどまります。投与開始直後や増量時に症状が出やすく、体が慣れるにつれて落ち着いていくケースがほとんどです。
吐き気・下痢・便秘が多いが、段階的な増量で軽減できる
臨床試験で報告された主な副作用は、吐き気、下痢、嘔吐、便秘、消化不良、食欲減退といった消化器系の症状です。いずれも軽度から中等度の症状が大半で、投与を開始した直後や用量を増やしたタイミングに集中していました。
2.5mgの低用量からゆっくり増量していく理由はまさにこの副作用対策にあります。急に高い用量を使うと消化器症状が強く出やすいため、4週間ごとに少しずつ体を慣らしていくことが大切です。
膵炎や胆のう炎など重大な副作用にも注意が必要
頻度は低いものの、急性膵炎や胆のう炎・胆管炎といった重大な副作用も報告されています。持続的な激しい腹痛や嘔吐が続く場合は、すぐに投与を中止して主治医に連絡してください。
また、低血糖にも注意が求められます。特に2型糖尿病の治療薬と併用している場合は、手の震えや冷や汗、強い空腹感といった低血糖の症状に気をつけましょう。低血糖が起きた場合は、ブドウ糖やジュースなど糖分を摂取して血糖値を上げるようにします。
- 吐き気・嘔吐・下痢・便秘・消化不良(多くは軽度〜中等度で一過性)
- 食欲減退(治療効果と表裏一体の症状)
- 急性膵炎(まれだが要注意)
- 胆のう炎・胆管炎(腹痛が持続する場合は受診)
- 低血糖(糖尿病治療薬との併用時に注意)
妊娠を希望する方は投与中止後2か月の避妊期間を設ける
チルゼパチドは妊娠中の安全性が確立されていないため、妊娠を希望する女性は使用を中止してから少なくとも2か月間は避妊を行うよう推奨されています。治療中に妊娠が判明した場合は、ただちに投与を中止して主治医に相談してください。
妊娠・授乳中の使用については、主治医やかかりつけ医と十分に話し合ったうえで判断することが大切です。将来の妊娠を視野に入れている方は、治療開始前にその旨を医師に伝えておきましょう。
チルゼパチドとウゴービ(セマグルチド)の肥満症治療としての違いを整理する
日本で使用できる肥満症治療薬はゼップバウンド(チルゼパチド)とウゴービ(セマグルチド)の2種類です。どちらもインクレチン関連薬ですが、作用の仕組みや減量効果の大きさには違いがあります。
ウゴービはGLP-1のみ、ゼップバウンドはGIPとGLP-1の両方に作用する
| 比較項目 | ゼップバウンド | ウゴービ |
|---|---|---|
| 一般名 | チルゼパチド | セマグルチド |
| 作用する受容体 | GIP+GLP-1(デュアル) | GLP-1のみ |
| 投与頻度 | 週1回皮下注射 | 週1回皮下注射 |
| 臨床試験での減量率 | 約15〜20.9% | 約15〜17% |
| 承認年(日本) | 2024年12月 | 2023年3月 |
臨床試験のデータではチルゼパチドがより大きな減量効果を示した
2025年に発表されたSURMOUNT-5試験では、チルゼパチドとセマグルチドが直接比較されました。72週時点で、チルゼパチド群は平均20.2%の体重減少を達成したのに対し、セマグルチド群は平均13.7%でした。
この差はGIP受容体への追加的な作用が寄与していると考えられていますが、どちらの薬も従来の肥満症治療薬と比べると非常に高い効果を示しています。どちらが自分に合うかは、合併症の種類や体質によっても異なるため、担当医と相談して決めるのがよいでしょう。
自分に合った治療薬を医師とともに選ぶことが一番大切
薬の効果だけでなく、副作用の出方や生活スタイルとの相性、治療費用なども含めて総合的に判断する必要があります。肥満症治療では、薬物療法だけでなく食事療法・運動療法との併用が基本です。
薬は「魔法の注射」ではなく、あくまで生活習慣改善の効果を底上げする補助的な治療法として位置づけられています。医師や管理栄養士と一緒に、食事や運動も含めたトータルな治療計画を立てていきましょう。
よくある質問
チルゼパチドは日本で肥満症治療薬として承認されていますか?
チルゼパチドは2024年12月27日に肥満症の効能・効果で日本の製造販売承認を取得しています。商品名は「ゼップバウンド」で、2025年4月11日に発売されました。
ただし、すべての肥満の方が対象になるわけではなく、BMIの基準や合併症の有無など、厳格な処方条件が設定されています。美容目的やダイエット目的での使用は認められていません。
チルゼパチドを有効成分とするマンジャロとゼップバウンドの違いは何ですか?
マンジャロとゼップバウンドはどちらも有効成分がチルゼパチドであり、用量設定や注射デバイスも同一です。違いは承認された適応症にあります。
マンジャロは2型糖尿病の治療薬として承認されており、血糖コントロールが主目的です。一方、ゼップバウンドは肥満症の治療薬として承認され、体重管理・減量が主目的となっています。同じ成分でも使用目的と処方条件がまったく異なるため、混同しないよう注意が必要です。
チルゼパチドの肥満症治療で期待できる減量効果はどのくらいですか?
大規模臨床試験SURMOUNT-1では、チルゼパチド15mg投与群が72週で平均20.9%の体重減少を達成しました。体重100kgの方であれば約21kgの減量に相当する数値です。
ただし、これは海外の臨床試験データであり、参加者の平均体重やBMIは日本人の平均より高い傾向がありました。日本人の場合は「体重の15〜20%程度の減少」を目安として考えるのが現実的でしょう。効果には個人差があるため、担当医と相談しながら治療を進めてください。
チルゼパチドの肥満症治療で報告されている主な副作用にはどのようなものがありますか?
チルゼパチドの副作用で最も多く報告されているのは、吐き気・下痢・嘔吐・便秘・消化不良といった消化器系の症状です。多くは軽度から中等度の範囲にとどまり、投与開始直後や増量時に出やすく、体が慣れるにつれて軽減する傾向があります。
まれに急性膵炎や胆のう炎といった重大な副作用が報告されているため、持続する激しい腹痛や嘔吐がある場合はただちに医療機関を受診してください。低用量からゆっくり増量していくことで、副作用のリスクを抑えることが可能です。
チルゼパチドによる肥満症治療を中断すると体重は元に戻りますか?
SURMOUNT-4試験の結果によると、36週間のチルゼパチド投与で約20%の体重減少を達成した後に薬をプラセボに切り替えた群は、52週間で平均14%の体重増加が見られました。一方、チルゼパチドを継続した群はさらに体重が減少しています。
この結果は、肥満症が一時的な治療で完治する疾患ではなく、継続的な管理が求められる慢性疾患であることを裏づけています。治療の中止・継続については、自己判断ではなく必ず主治医と相談して決めるようにしてください。
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