HPVワクチンの副作用として報告が多いのは、注射部位の痛み・腫れと、接種直後の失神(血管迷走神経反射)です。いずれも一時的な症状であり、適切な対処を知っておけば過度に恐れる必要はありません。

失神は注射そのものへの緊張や痛みによって自律神経が過剰に反応し、一時的に脳への血流が下がることで起こります。思春期の若い世代で起きやすい傾向がありますが、接種後15分ほど安静に過ごすことで防げるケースがほとんどです。

この記事では、HPVワクチンの主な副作用と血管迷走神経反射の仕組み・予防策、世界規模の安全性データを解説します。正しい知識を持ち安心して接種に臨むためにお役立てください。

目次
  1. HPVワクチンの副作用で多い症状──注射部位の痛みと全身のだるさ
    1. 注射部位の痛み・赤み・腫れが生じる理由
    2. 接種後に感じるだるさ・頭痛・発熱はいつ治まるのか
    3. 副作用の多くは軽度で一過性──過度な心配は不要
  2. 血管迷走神経反射とは──HPVワクチン接種後の失神が起きる仕組み
    1. 自律神経が過剰に反応し脳への血流が一時的に下がる
    2. 思春期の若い世代に失神が起きやすい背景
    3. 失神に伴うけいれん様の動きは「てんかん発作」と異なる
  3. HPVワクチン接種後の失神を予防する4つの対策
    1. 座った姿勢か横になった状態で接種を受ける
    2. 接種後15〜30分はその場で安静に過ごす
    3. 過去に注射で気を失った経験がある場合は必ず伝える
    4. リラックスした環境づくりが緊張を和らげる
  4. 大規模調査が示すHPVワクチンの安全性データ
    1. 市販後監視データが裏付ける高い安全性
    2. 重篤な副作用の報告率は極めて低い
    3. 世界各国のデータが一貫して安全性を支持
  5. HPVワクチン接種時の痛みをやわらげるための工夫
    1. 冷却と圧迫で腫れや痛みを和らげる
    2. 不安やストレスが痛みの感じ方を強くする
    3. 接種後の日常生活で気をつけたいポイント
  6. 他のワクチンと比べたHPVワクチンの副作用──特別に危険なのか?
    1. インフルエンザや髄膜炎菌ワクチンでも失神や局所反応は起きる
    2. HPVワクチン固有のリスクとして懸念された報告への科学的見解
    3. 副作用への不安がワクチン接種率に与える影響は大きい
  7. よくある質問

HPVワクチンの副作用で多い症状──注射部位の痛みと全身のだるさ

HPVワクチン接種後にもっとも起きやすい副作用は、注射した部位の痛みです。接種を受けた方の80%以上が痛みを経験しますが、大半は軽度から中等度で数日以内に治まります。

注射部位の痛み・赤み・腫れが生じる理由

ワクチンに含まれる成分が体内に入ると、免疫が「異物」として認識して反応を起こします。この免疫反応が注射部位の周囲の組織に炎症を引き起こし、痛みや赤み・腫れとして現れるのです。

9価HPVワクチン(シルガード9)では、4価ワクチンよりもわずかに局所反応が出やすいという報告があります。ただし症状の持続時間に大きな差はなく、通常1〜3日で軽快します。

副作用の種類発生頻度持続期間
注射部位の痛み約80〜90%1〜3日
赤み・腫れ約25〜50%1〜5日
頭痛約10〜15%当日〜翌日
発熱約5〜10%1〜2日
倦怠感約5〜10%1〜2日

接種後に感じるだるさ・頭痛・発熱はいつ治まるのか

全身症状として報告されやすいのが、だるさ・頭痛・軽い発熱です。これらは接種当日から翌日にかけてピークを迎え、ほとんどの場合48時間以内に消失します。

頭痛は接種者の約10人に1人がに経験しますが、日常生活に支障が出るほどの強さになることはまれでしょう。体を休め水分を十分にとることで自然に回復するのが通常の経過です。

副作用の多くは軽度で一過性──過度な心配は不要

大規模臨床試験のデータでは、HPVワクチンを接種したグループとプラセボ(対照薬)を接種したグループとで重い副作用の発生率に有意な差は認められていません。局所反応はワクチン群のほうが多いものの、そのほとんどが軽度から中等度にとどまります。

重篤な副作用を理由に接種を中断した例は全体の0.1%未満です。副作用が出ても短期間で治まるという事実を知っておくと、不安を和らげる助けになるでしょう。

血管迷走神経反射とは──HPVワクチン接種後の失神が起きる仕組み

「注射の直後にめまいがして意識を失った」という経験は、血管迷走神経反射(けっかんめいそうしんけいはんしゃ)と呼ばれる自律神経の一時的な乱れが原因です。HPVワクチンに限らず、あらゆる注射行為のあとに起こりえます。

自律神経が過剰に反応し脳への血流が一時的に下がる

注射の痛みや緊張を感じると、交感神経が一気に活性化したあと副交感神経が過度に反応することがあります。その結果、心拍数の低下と血管の拡張が同時に起こり、脳へ送られる血液量が急減して意識が遠のきます。

この反応はワクチンの成分ではなく「注射という行為」に対する体の防御反応であり、ワクチン固有の毒性とは区別して考える必要があります。採血でも同様の失神が起こることから、針を刺す行為そのものが引き金になるといえるでしょう。

思春期の若い世代に失神が起きやすい背景

HPVワクチンの対象年齢は主に9〜26歳であり、このうち10代の若い世代は血管迷走神経反射を起こしやすい傾向があります。思春期はホルモンバランスや自律神経のバランスが変動しやすい時期であり、注射に対する心理的な不安も相まって失神のリスクが高まります。

オーストラリアの11年間にわたる監視データでも、12〜13歳の接種者が失神の報告率でもっとも高い値を示しています。女性に多いとの報告もありますが、男性でも発生例はあるため性別を問わず注意が必要です。

失神に伴うけいれん様の動きは「てんかん発作」と異なる

失神の際に手足がピクピクと動く「けいれん様の動き」がみられることがありますが、これは脳への血流低下に伴う一時的な現象です。てんかん発作とは発生の仕組みが異なり、後遺症を残すことは通常ありません。

医療従事者がこの動きを本当のけいれんと誤認し、不要な抗てんかん薬を処方してしまうケースが海外の文献に記載があります。正確な鑑別を行うことで、接種者が安心して次回以降の接種に臨める環境を整えることが大切です。

比較項目血管迷走神経反射てんかん発作
原因自律神経の一過性の乱れ脳の電気活動の異常
持続時間数秒〜数十秒数十秒〜数分
回復横になると速やかに意識回復意識混濁が続くことがある

HPVワクチン接種後の失神を予防する4つの対策

血管迷走神経反射による失神は、接種時の体勢や接種後の安静時間を確保することで大幅にリスクを下げられます。以下の対策を知っておけば、安心して接種に臨めるでしょう。

  • 座位または仰向けで接種を受ける
  • 接種後15〜30分はその場で安静にする
  • 過去に失神経験がある場合は事前に医療者へ伝える
  • リラックスできる環境を整え、緊張を和らげる

座った姿勢か横になった状態で接種を受ける

立ったまま接種を受けると、血管迷走神経反射が起きた際に転倒して頭部を打つ危険があります。椅子に深く腰かけた状態、あるいは診察台に横になった状態で接種を受けるだけで、転倒リスクを大きく減らせます。

日本の大規模接種会場でのデータでも、仰向けでの接種は失神の発生率を有意に低減させたという報告があります。接種を受ける際には、遠慮なく「座って受けたい」「横になりたい」と伝えてください。

接種後15〜30分はその場で安静に過ごす

失神の約90%は接種後15分以内に発生しています。米国CDCも接種後15分間の経過観察を推奨しており、日本の添付文書にも同様の注意喚起を記載しています。

待合室で椅子に座ったまま静かに過ごすだけで十分です。気分が悪くなった場合はすぐにスタッフに声をかけ、横になる体勢をとりましょう。

過去に注射で気を失った経験がある場合は必ず伝える

以前の予防接種や採血で失神やめまいを経験したことがある方は、接種前に必ず医師や看護師へ申告してください。事前に情報が共有されていれば、仰臥位(あおむけ)での接種や観察時間の延長など、個別の対策を講じることができます。

リラックスした環境づくりが緊張を和らげる

注射への恐怖心や緊張は、血管迷走神経反射の引き金になりやすい要因です。深呼吸をする、音楽を聴く、付き添いの家族と会話するなど、自分なりのリラックス法を見つけておくとよいでしょう。

接種する医療機関の雰囲気も影響します。待ち時間が長すぎると不安が増しやすいため、予約制を利用してスムーズに接種を受けられる環境を選ぶのも一つの工夫です。

大規模調査が示すHPVワクチンの安全性データ

世界中で数千万回を超える接種が行われた結果、HPVワクチンの安全性は高い水準にあることが複数の大規模調査で裏付けられています。重篤な副作用の発生率は極めて低く、接種による利益がリスクを大きく上回ると各国の保健機関が結論づけています。

市販後監視データが裏付ける高い安全性

米国のワクチン有害事象報告制度(VAERS)には、9価HPVワクチンの承認後10年間で約23,000件の報告が寄せられました。そのうち約92%が「非重篤」に分類されており、もっとも多い報告は失神・めまい・注射部位の反応です。

非重篤の報告が全体の9割以上を占めるという結果は、臨床試験の段階で得られた安全性プロファイルと一致しています。市販後に新たな安全性上の懸念は見つかっていません。

監視期間調査対象結果
2006〜2015年4価ワクチン(VAERS)重篤例の割合は約8%。失神以外に確定した安全性シグナルなし
2014〜2024年9価ワクチン(VAERS)約23,000件の報告中、非重篤が92.5%
2007〜2017年4価ワクチン(豪州)900万回接種で重篤な有害事象は低率で推移

重篤な副作用の報告率は極めて低い

ワクチン安全性データリンク(VSD)を用いたリアルタイム監視では、9価HPVワクチン接種後のアナフィラキシーや自己免疫疾患の発生率は、接種していない集団のバックグラウンド発生率と有意差がないと判明しています。

7つの第III相臨床試験のデータを統合した解析でも、重篤な有害事象の発生率はワクチン群と対照群でほぼ同等でした。妊娠中の安全性に関しても、意図せず接種を受けた女性に異常な転帰の増加は認められていません。

世界各国のデータが一貫して安全性を支持

デンマーク・スウェーデン・オーストラリア・日本など、各国の独立した安全性評価が一貫してHPVワクチンの安全性を支持しています。WHOの世界ワクチン安全性諮問委員会も定期的にレビューを行い、接種推奨を維持しています。

日本では2013年に積極的勧奨が一時差し控えとなりましたが、その後の調査で因果関係を示す科学的根拠は見つからず、2022年4月に積極的勧奨が再開されました。国際的にも国内的にも、安全性の評価は定着しているといえます。

HPVワクチン接種時の痛みをやわらげるための工夫

注射部位の痛みはHPVワクチンでもっとも一般的な副作用ですが、いくつかの工夫によって痛みの感じ方を軽減できます。接種前後にできる対策を把握しておくと安心です。

冷却と圧迫で腫れや痛みを和らげる

接種後に腕が腫れたり痛んだりした場合は、清潔な冷たいタオルや保冷剤を当てると炎症を鎮める効果が期待できます。強く揉んだりこすったりすると逆に症状が悪化する場合があるため、やさしく冷やすことを心がけてください。

腫れが気になるときは、腕を心臓より高い位置に保つのもよいでしょう。市販の鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)を服用してもかまいませんが、使用前にかかりつけ医に相談すると安心です。

不安やストレスが痛みの感じ方を強くする

痛みの感じ方は心理的な状態に左右されやすいことが知られています。「とても痛いに違いない」と身構えると、実際に痛みが増幅される傾向があります。

接種会場ではスマートフォンで動画を観たり、音楽を聴いたりして意識を注射から逸らす方法が有効です。小児科の領域では「注意分散法」として広く取り入れており、成人にも効果があると考えられています。

接種後の日常生活で気をつけたいポイント

接種当日は激しい運動を控え、十分な水分補給と休息を心がけてください。入浴は問題ありませんが、長時間の熱い湯船は避けたほうがよいでしょう。

翌日以降に痛みが残っている場合でも、通常の日常生活は送れます。痛みが1週間以上続いたり、接種部位に強い発赤や化膿が見られたりする場合は、早めに医療機関を受診してください。

タイミング推奨される対応
接種直後15〜30分の安静。めまいや気分不良があれば横になる
接種当日激しい運動は避ける。水分を十分にとる
翌日以降痛みが残っていても通常生活は可能。冷却で対処
1週間以上持続医療機関を受診して医師に相談する

他のワクチンと比べたHPVワクチンの副作用──特別に危険なのか?

HPVワクチンの副作用は、他の定期接種ワクチンと比べて特別に頻度が高いわけでも、種類が特殊なわけでもありません。注射部位の反応や失神といった報告は、多くのワクチンに共通してみられます。

インフルエンザや髄膜炎菌ワクチンでも失神や局所反応は起きる

失神はHPVワクチンに限った現象ではなく、破傷風・ジフテリア・百日咳(Tdap)ワクチンや髄膜炎菌ワクチンの接種後にも同程度の頻度で起こっています。同時に複数のワクチンを接種すると失神のリスクがやや上がるという研究もありますが、HPVワクチン単独のリスクが突出して高いわけではありません。

注射部位の痛みや腫れについても、インフルエンザワクチンやB型肝炎ワクチンと同様の傾向がみられます。ワクチンの種類を問わず、針を刺して異物を体内に注入する行為には一定の局所反応が伴うのです。

HPVワクチン固有のリスクとして懸念された報告への科学的見解

一時期、複合性局所疼痛症候群(CRPS)や体位性頻脈症候群(POTS)がHPVワクチンと関連するのではないかと報告されました。しかし、WHOや欧州医薬品庁(EMA)が行った詳細な検討では、ワクチン接種との因果関係を示す根拠は見つかっていません。

これらの症状はワクチン未接種の集団でも同程度の頻度で発生しており、ワクチン接種と時間的に偶然重なった可能性が高いと各機関は評価しています。不安を抱えている方は、科学的なデータに基づいてかかりつけ医と相談されることをおすすめします。

  • WHO・EMA・CDCなど各国保健機関がHPVワクチンの安全性を繰り返し確認している
  • 因果関係が確定していない事象を根拠にワクチンを避けることは、将来のがんリスクを高めうる

副作用への不安がワクチン接種率に与える影響は大きい

HPVワクチンの接種率は、副作用への懸念が報道やSNSで拡散されると大幅に低下する傾向があります。日本では2013年に積極的勧奨が差し控えとなった後、接種率が一時的に1%未満にまで落ち込みました。

正確な情報が行き届かないまま接種を控えると、将来的に子宮頸がんをはじめとするHPV関連がんの発症リスクが高まりかねません。副作用の頻度と重症度を冷静に把握し、接種による予防効果とのバランスを判断することが大切です。

よくある質問

Q
HPVワクチンの副作用による失神はどのくらいの頻度で起こりますか?
A

HPVワクチン接種後の失神(血管迷走神経反射)は、報告データによると10万回の接種あたり約3〜8件の頻度で生じています。発生率は接種を受ける方の年齢や緊張の度合いによって変わりますが、決して高い数字ではありません。

失神はワクチンの成分による反応ではなく、注射という行為に対する自律神経の過剰反応が原因です。接種後15分間の安静を守ることで、失神が起きても安全に対処できるよう備えることができます。

Q
HPVワクチンの注射部位の痛みはどのくらい続きますか?
A

注射部位の痛みは多くの場合、接種後数時間以内に始まり1〜3日程度で自然に治まります。腫れや赤みを伴うこともありますが、ほとんどは5日以内に消失します。

痛みの強さは個人差がありますが、日常生活に大きな支障が出るほどの激痛になることはまれです。冷却や市販の鎮痛剤(医師に確認のうえ使用)で十分に対処できるケースが大半でしょう。

Q
HPVワクチンで重篤な副作用が起こる可能性はありますか?
A

アナフィラキシーなどの重篤なアレルギー反応が起こる可能性は完全には否定できませんが、その頻度は極めて低く、100万回の接種あたり数件程度にとどまります。自己免疫疾患やギラン・バレー症候群との因果関係も現時点では確認されていません。

世界各国の大規模監視データでは、HPVワクチン接種者と非接種者のあいだで重篤な有害事象の発生率に有意な差は認められていません。接種のリスクよりもHPV関連がんの予防効果のほうがはるかに大きいというのが、国際的な保健機関の一致した見解です。

Q
HPVワクチンの接種後に運動をしても問題ないですか?
A

接種当日は激しい運動を控えるよう各機関が推奨しています。血管迷走神経反射による失神は接種後30分以内に起こりやすいため、少なくともその間は安静にしておくのが安全です。

翌日以降は注射部位の痛みや腫れが軽度であれば、通常の運動を再開してかまいません。ただし、腕に強い痛みが残っている場合は、その腕に負荷がかかる動作を避け、症状が落ち着いてから再開するようにしてください。

Q
HPVワクチンの2回目・3回目の接種で副作用は強くなりますか?
A

臨床試験のデータでは、2回目・3回目の接種で副作用の頻度や強さが著しく増加するという傾向は認めていません。注射部位の反応はどの回でも同程度に起こりうると考えられています。

ただし、1回目の接種で失神を経験した方は、2回目以降も同様の反応が起こりやすい可能性があります。その場合は仰向けの姿勢で接種を受け、観察時間を長めにとるなどの配慮を医療機関に依頼してください。

参考文献