関節リウマチや膠原病で免疫抑制剤を使っている方、抗がん剤治療中の方にとって、帯状疱疹ワクチンの接種は迷いが大きいテーマです。

シングリックスは生ワクチンではないため、免疫を抑える治療を続けながらでも接種を検討できるという報告が増えています。

この記事では、接種の安全性に関する研究結果や副反応への対応、医療機関に伝えておきたい情報を整理してお伝えします。

治療を続けながら帯状疱疹を防ぐ方法を知りたい方の参考になれば幸いです。

目次
  1. 生ワクチンではないシングリックスが免疫抑制剤治療中でも検討される理由
    1. 生ワクチンと不活化ワクチン、帯状疱疹予防における違い
    2. 二回の接種スケジュールと効果が続く期間
    3. 接種後に体内で起こる免疫反応のあらまし
  2. リウマチや抗がん剤治療中の患者が帯状疱疹になりやすいのはなぜか
    1. 関節リウマチの炎症そのものが感染症のリスクを上げている
    2. ステロイドや抗リウマチ薬が免疫の働きを抑える仕組み
    3. JAK阻害薬の使用中は帯状疱疹の発症率が上がりやすい
    4. 抗がん剤治療中に帯状疱疹が増えやすい背景
  3. 免疫を抑える治療中でもシングリックスは安全に接種できるのか?
    1. 国内外の学会が示す接種への方針
    2. 関節リウマチ患者を対象にした調査で分かったこと
    3. JAK阻害薬や生物学的製剤を使用中の患者での報告
  4. 抗がん剤治療中に接種するタイミングで気をつけたいこと
    1. 治療を始める前と治療中、どちらが接種に向いているのか?
    2. 抗がん剤の影響で抗体ができにくい時期がある
    3. 固形がんの治療中に接種した患者を調べた研究
    4. 主治医と接種日程を相談する際に確認したいこと
  5. 接種後に出やすい症状とセルフケアの方法
    1. 注射した部位に出やすい腫れや痛み
    2. 発熱や倦怠感など全身に出る症状
    3. 症状が長引くときは受診したほうがいいのか?
  6. 関節リウマチの症状が接種後に悪化しないか心配な方へ
    1. フレアと呼ばれる症状悪化の定義と報告されている頻度
    2. 治療薬を中断せずに接種した報告から分かること
    3. 不安を感じたときに確認しておきたいポイント
  7. シングリックス接種を相談する際に医療機関へ伝えたいこと
    1. 現在使用している薬剤の名称と量
    2. 過去の帯状疱疹や水ぼうそうの経験
    3. アレルギー歴や体調の変化
  8. よくある質問

生ワクチンではないシングリックスが免疫抑制剤治療中でも検討される理由

シングリックスは不活化型の帯状疱疹ワクチンであり、免疫を抑える治療中でも接種の対象から外れません。ウイルスそのものを使わない仕組みのため、生ワクチンとは異なる立場で検討できます。

生ワクチンと不活化ワクチン、帯状疱疹予防における違い

帯状疱疹を防ぐワクチンには、これまで使われてきた生ワクチンと、ウイルスの一部だけを使う不活化型のシングリックスの二種類があります。生ワクチンは弱めたウイルスを体内に入れる仕組みのため、免疫を強く抑える薬を使っている方には基本的に勧められません。

一方でシングリックスはウイルスの増える力を持たない成分のみを使うため、免疫抑制剤や抗がん剤治療中の方も接種の選択肢に入ります。

項目生ワクチンシングリックス
ワクチンの種類弱毒生ウイルス遺伝子組換え不活化抗原
免疫抑制中の接種基本的に避ける検討の対象になる
接種回数一回二回(約二か月空けて)

このように二つのワクチンは仕組みが大きく異なり、免疫の状態に応じて選べるかどうかが変わってきます。

二回の接種スケジュールと効果が続く期間

シングリックスは一回目の接種から二か月から六か月の間隔を空けて、二回目を接種する流れが基本になっています。海外の臨床試験では、接種から数年が経過した後も効果が高い水準で続いていると報告されており、長期的な安心材料といえるでしょう。

免疫を抑える薬を使っている方では効果の持続期間にばらつきが出る場合もあるため、主治医と接種後の経過を確認しながら進めると安心です。

一度の接種で終わらせず、二回目まできちんと受けきることが、免疫を抑える治療を受けている方にとってはより重要な意味を持つといえます。

接種後に体内で起こる免疫反応のあらまし

シングリックスを接種すると、体はウイルスの一部であるたんぱく質を異物として認識し、抗体をつくる準備を始めます。この反応にはアジュバントという成分が一役買っており、免疫の働きを後押しする目的で配合されています。

反応が起こる過程で発熱や倦怠感が出ることもありますが、これは免疫がきちんと働いているしるしだと捉えられています。

リウマチや抗がん剤治療中の患者が帯状疱疹になりやすいのはなぜか

関節リウマチの患者は治療薬の影響もあって、帯状疱疹にかかる頻度が一般の方より高いことが分かっています。抗がん剤治療中も同様に、免疫の働きが弱まることで発症のリスクが上がるとされています。

  • 関節リウマチなどの自己免疫疾患そのもの
  • ステロイドの長期使用
  • メトトレキサートなどの抗リウマチ薬
  • JAK阻害薬の使用
  • 抗がん剤による骨髄抑制

これらの要因は単独でも帯状疱疹のリスクを上げますが、複数が重なる方ほど注意したい場面が増えてきます。

関節リウマチの炎症そのものが感染症のリスクを上げている

関節リウマチでは、関節を攻撃してしまう免疫の異常な働きが、感染症への抵抗力にも影響を及ぼすと考えられています。研究では、関節リウマチの患者は健康な人と比べて感染症全体のリスクが二倍程度高いと報告されています。

日和見感染と呼ばれる種類の感染症も増える傾向があり、帯状疱疹の原因となる水痘帯状疱疹ウイルスもこの代表的な存在です。

ステロイドや抗リウマチ薬が免疫の働きを抑える仕組み

関節リウマチの治療で使われるステロイドは、炎症を抑える働きが強い一方で、量や期間によって感染症への抵抗力を下げる面も持っています。

メトトレキサートや生物学的製剤といった抗リウマチ薬も、関節の炎症を抑えるために免疫の働きそのものを調整する薬であり、その分だけウイルスの再活性化を許しやすくなる場合があります。

JAK阻害薬の使用中は帯状疱疹の発症率が上がりやすい

バリシチニブやトファシチニブなどのJAK阻害薬を使っている関節リウマチの患者では、生物学的製剤を使う患者よりも帯状疱疹の発症率が高いという報告が重ねられています。

特に日本や韓国などアジア圏の患者でこの傾向が強く出ることが分かっており、国内で治療を受けている方にとっては身近なテーマだといえます。この発症率の高さが、シングリックス接種を積極的に検討する理由のひとつになっています。

抗がん剤治療中に帯状疱疹が増えやすい背景

抗がん剤の多くは、がん細胞だけでなく骨髄でつくられる免疫細胞にも影響を与えるため、治療中は感染症全体への抵抗力が落ちやすくなります。

固形がんの治療を受けている患者を対象にした研究でも、化学療法中は帯状疱疹の発症率が上がる傾向が確認されており、治療スケジュールの中でワクチンをどう位置づけるかが話題になっています。

免疫を抑える治療中でもシングリックスは安全に接種できるのか?

複数の研究で、免疫抑制剤や抗がん剤治療中の患者にシングリックスを接種しても、深刻な副反応は増えていないと報告されています。学会のガイドラインでも、接種は推奨される方向で示されています。

国内外の学会が示す接種への方針

米国リウマチ学会は、免疫を抑える薬を使っている十八歳以上のリウマチ患者に対して、シングリックスの接種を強く勧める内容をガイドラインに盛り込んでいます。

欧州リウマチ学会も同様に、生ワクチンを避けるべき患者層に対して不活化型のシングリックスを選ぶ方向性を示しており、国際的に一致した姿勢が広がっています。

関節リウマチ患者を対象にした調査で分かったこと

ある研究では、四百人を超える関節リウマチや全身性のリウマチ性疾患の患者にシングリックスを接種した結果、深刻な副反応は確認されませんでした。

症状の悪化にあたる「フレア」が見られた患者の割合も一割以下にとどまり、接種前から想定されていた背景的な悪化率と比べても大きな差はなかったと報告されています。

研究を行った医療機関では、接種前後で炎症の指標を継続的に確認しており、急激な変化が起きていないことも確認されています。

JAK阻害薬や生物学的製剤を使用中の患者での報告

JAK阻害薬や生物学的製剤を使用しているリウマチ患者を対象にした研究では、薬を中止せずにシングリックスを接種しても、抗体の上がり方は健康な人と同程度だったと報告されています。

治療を継続したままでも十分な免疫反応が得られたという結果は、接種のために薬を止める必要がないという安心材料につながります。

主な研究結果のまとめ

研究対象人数主な結果
単一施設の追跡調査403人フレア6.7%・深刻な副反応なし
622人を調べた調査622人局所反応が中心・重い副反応は少数
JAK阻害薬使用者の調査52人抗体の上がり方が健常者と同程度

こうした結果を踏まえると、免疫を抑える治療を続けながらの接種は、十分に検討できる選択肢として位置づけられているといえるでしょう。

抗がん剤治療中に接種するタイミングで気をつけたいこと

シングリックスは抗がん剤治療の前でも治療中でも接種できますが、抗体のつきやすさには差が出ることがあります。治療スケジュールに合わせて接種時期を調整すると、より高い効果が期待しやすくなります。

治療を始める前と治療中、どちらが接種に向いているのか?

理想的には、抗がん剤治療を始める前にシングリックスの接種を済ませておくと、免疫がしっかり働いている状態で抗体をつくれるため効率がよいとされています。

ただしがんの診断から治療開始までの期間が短い場合も多く、現実には治療中の接種を選ぶケースも少なくありません。

タイミング利点注意点
治療開始前抗体がつきやすい診断から治療までの時間が短いことが多い
治療中治療スケジュールを変えずに済む抗体のつき方に個人差が出やすい

抗がん剤の影響で抗体ができにくい時期がある

抗がん剤の種類によっては、投与から数日から数週間は白血球の数が大きく減る時期があり、この時期にワクチンを受けても抗体がつくられにくい場合があります。

主治医は血液検査の結果を見ながら、白血球の数が比較的保たれているタイミングを選んで接種日を決めることが多いといえます。

固形がんの治療中に接種した患者を調べた研究

乳がんや肺がんなど固形がんの治療を受けている患者を対象にした海外の研究では、治療前または治療中にシングリックスを接種したグループで、十分な抗体の上昇が確認されました。

接種から一年が経過した後も抗体の水準が保たれていたと報告されており、化学療法中であっても接種の意味は薄れないことを示す結果だといえます。

血液のがんを対象にした別の大規模な研究でも、同様に高い割合で十分な抗体反応が得られたと報告されており、固形がんに限らず幅広いがん種で接種の意味が支持されています。

主治医と接種日程を相談する際に確認したいこと

抗がん剤治療を担当する主治医と接種日程を相談する際は、直近の治療スケジュールや血液検査の結果を共有しておくと、より適した接種日を選びやすくなります。

シングリックスを処方する皮膚科や内科の医師にも、現在受けているがん治療の内容を伝えておくと、情報のずれを防げるでしょう。

がん治療を担当する医師とワクチンを担当する医師が異なる場合は、診療情報提供書などを通じて情報を共有してもらうと、接種の判断がより的確になります。

接種後に出やすい症状とセルフケアの方法

シングリックスは他のワクチンと比べて、接種した部位の痛みや腫れが出やすいことで知られています。多くは数日のうちに自然に軽くなるため、慌てずに様子を見る姿勢が大切です。

注射した部位に出やすい腫れや痛み

接種した部位には、赤みや腫れ、押すと痛む感覚が出ることが多く、研究によっては八割を超える方に何らかの局所反応が見られたと報告されています。

冷やしたタオルを軽く当てると楽になる場合がありますが、強くこすったり長時間冷やし続けたりするのは避けたほうがよいでしょう。

発熱や倦怠感など全身に出る症状

接種後には発熱、頭痛、だるさといった全身症状が出ることもあり、免疫を抑える薬を使っている方でも一定の割合で経験するとされています。

症状出やすさの傾向
倦怠感比較的多い
発熱一定数の報告あり
頭痛報告にばらつきあり

これらの症状は二回目の接種後にやや出やすいという報告もあり、接種当日から翌日にかけては無理のない予定を立てておくと安心です。

症状が長引くときは受診したほうがいいのか?

通常の発熱や倦怠感は数日のうちに落ち着くことが多いですが、高熱が続く場合や、接種部位の腫れが広がって熱を持つ場合は、念のため医療機関に相談したほうが安心です。

免疫を抑える治療を受けている方は感染症の症状が分かりにくいこともあるため、いつもと違う体調の変化を感じたら早めに連絡する姿勢が望ましいといえます。

普段から自分の体調の基準を把握しておくと、接種後のちょっとした変化にも気づきやすくなり、必要なタイミングで相談しやすくなります。

関節リウマチの症状が接種後に悪化しないか心配な方へ

シングリックスの接種によって関節リウマチの症状が大きく悪化するという結果は、現在のところ報告されていません。データを見る限り、過度に心配する必要はないといえるでしょう。

フレアと呼ばれる症状悪化の定義と報告されている頻度

医療の現場では、接種後十二週間以内に関節の腫れが新たに記録されたり、ステロイドの量が増えたりした場合を「フレア」と呼んで管理しています。

四百人規模の調査では、フレアが見られた患者は全体の七パーセント未満にとどまりました。

調査フレアの割合
四百人規模の調査7%未満
接種前の背景的な悪化率約3割

接種前から想定されていた自然な悪化率と比べても、大きな増加はなかったと報告されています。

治療薬を中断せずに接種した報告から分かること

JAK阻害薬や生物学的製剤を使用している患者を対象にした研究では、薬を中止せずにシングリックスを接種しても、関節の症状を示す指標に大きな変化は見られませんでした。

この結果は、接種のためにあえて治療薬を止める必要性が低いことを示しており、治療を継続したい患者にとって心強い情報だといえるでしょう。

関節リウマチの治療では薬を継続することそのものが症状の安定につながるため、接種のたびに治療を中断しなくて済む点は実生活でも大きな利点になります。

不安を感じたときに確認しておきたいポイント

接種後に関節の痛みが強くなったと感じた場合は、自己判断で薬を調整せず、まずは普段から診察を受けている主治医に状況を伝えることが大切です。

症状の変化を記録しておくと、診察の際に医師が状態を把握しやすくなり、適切な対応につながりやすくなります。

シングリックス接種を相談する際に医療機関へ伝えたいこと

免疫抑制剤や抗がん剤治療を受けている方がシングリックスの接種を相談する際は、現在の治療内容を具体的に伝えることが大切です。事前に整理しておく情報が多いほど、医師は安全な接種タイミングを判断しやすくなります。

現在使用している薬剤の名称と量

ステロイドやメトトレキサート、JAK阻害薬、生物学的製剤、抗がん剤など、現在使用しているすべての薬剤の名称と用量を伝えておくと、医師は免疫の状態をより正確に把握できます。

お薬手帳や処方箋の控えを持参すると、口頭での説明だけでは伝わりにくい細かな情報も共有しやすくなります。

過去の帯状疱疹や水ぼうそうの経験

過去に帯状疱疹や水ぼうそうにかかった経験があるかどうかも、接種を検討する際の参考になる情報です。

すでに水痘帯状疱疹ウイルスに感染した経験がある方がほとんどであるため、感染歴の有無そのものが接種を妨げる理由にはなりませんが、医師が経過を把握するうえで役立ちます。

アレルギー歴や体調の変化

これまでのワクチン接種で強いアレルギー反応が出た経験がある場合や、当日に発熱など体調の変化がある場合は、必ず接種前に伝える必要があります。

些細に思える体調の変化でも、免疫を抑える治療を受けている方では大きな意味を持つことがあるため、遠慮せずに共有する姿勢が望ましいといえます。

受診前に準備したいメモ

  • 現在の薬剤名と用量が分かるお薬手帳
  • 直近の血液検査の結果
  • 過去の帯状疱疹や水ぼうそうの経験
  • ワクチンで体調が変わった経験の有無

このようなメモを用意しておくと、診察時間を有効に使いながら、安全な接種タイミングを一緒に考えやすくなります。

よくある質問

Q
シングリックスは免疫抑制剤を使用中でも接種できますか?
A

シングリックスは生ワクチンではないため、免疫抑制剤を使用している方でも接種の対象になります。学会のガイドラインでも、免疫を抑える治療を受けている患者への接種が推奨される方向で示されています。

ただし体調や治療内容によって接種に適した時期が異なるため、主治医に相談しながら進めることが大切です。

Q
シングリックス接種後に関節リウマチが悪化することはありますか?
A

四百人規模の調査では、接種後にフレアと呼ばれる症状悪化が見られた患者は全体の七パーセント未満にとどまりました。この割合は接種前から想定されていた背景的な悪化率と比べても大きな差はなく、過度に心配する必要はないと考えられています。

症状の変化が気になる場合は、自己判断せず早めに主治医へ相談してください。

Q
抗がん剤治療中にシングリックスを接種するタイミングはいつが良いですか?
A

理想的には抗がん剤治療を始める前に接種を済ませておくと、免疫がしっかり働く状態で抗体をつくれるため効率がよいとされています。ただし治療開始までの期間が短いことも多く、治療中に接種するケースも少なくありません。

白血球の数が比較的保たれているタイミングを選んで接種することが多いため、血液検査の結果を踏まえて主治医と日程を相談してください。

Q
シングリックス接種後に出やすい副反応はどのようなものですか?
A

接種した部位の腫れや痛みが出やすく、研究によっては八割を超える方に何らかの局所反応が見られたと報告されています。発熱や倦怠感、頭痛といった全身症状が出ることもあり、これらは二回目の接種後にやや強く出やすい傾向があります。

多くの症状は数日のうちに自然に軽くなりますが、高熱が続く場合などは医療機関に相談してください。

Q
JAK阻害薬を使用中でもシングリックスの効果は期待できますか?
A

JAK阻害薬や生物学的製剤を使用している関節リウマチ患者を対象にした研究では、薬を中止せずに接種しても、抗体の上がり方は健康な人と同程度だったと報告されています。

治療を継続したままでも十分な免疫反応が得られたという結果は、接種のために薬を止める必要がないという安心材料につながります。詳しい効果の見込みについては、治療内容を把握している主治医に確認することをお勧めします。

参考文献