生ワクチンを打てない状態とは、免疫機能が低下しており、弱毒化された生きた病原体でも体内で増殖するリスクがある状態のことです。医学的には「接種不適当者」と呼ばれ、皮膚疾患の治療を受けている方の中にも、この状態に当てはまる人は決して少なくありません。

皮膚疾患の治療に用いられる免疫抑制剤・全身性ステロイド・抗がん剤・生物学的製剤などは炎症を抑える反面、免疫機能を低下させます。こうした薬を使用中は、生ワクチンの接種が原則として禁忌とされています。

この記事では、生ワクチンを打てない理由から各薬剤ごとの禁忌の基準、治療終了後の再接種のタイミングまで、皮膚疾患治療中の方が知っておくべき情報をまとめています。

目次
  1. 生ワクチンを打てない理由は免疫力の低下にあります
    1. 生ワクチンと不活化ワクチン、根本的な違いは何か
    2. 弱毒化された病原体が体内で増殖するリスク
    3. 接種不適当者として医学的に定められている基準
  2. 免疫抑制剤を使っている皮膚疾患患者が生ワクチンを打てない理由
    1. 免疫抑制剤が免疫細胞に与える影響
    2. 皮膚疾患の治療でよく使われる代表的な免疫抑制剤
    3. 免疫抑制中でも接種できるワクチンの種類
  3. ステロイドの量と投与経路で変わる生ワクチン禁忌の判断
    1. 外用ステロイドは生ワクチン禁忌の対象にならない
    2. 全身性ステロイドで禁忌となる投与量の目安
    3. ステロイド治療中に接種できるワクチン
  4. 抗がん剤・分子標的薬と生ワクチン接種が危険な理由
    1. 皮膚悪性腫瘍の治療薬が免疫機能に与える影響
    2. 治療終了後に生ワクチンが打てるまでの目安
    3. 化学療法中に推奨されるワクチンの考え方
  5. 乾癬・アトピー性皮膚炎の生物学的製剤とJAK阻害薬で生ワクチンを避けるべき理由
    1. アトピー性皮膚炎の生物学的製剤(デュピルマブなど)とワクチンの関係
    2. 乾癬治療に使われるTNF・IL-17・IL-23阻害薬と生ワクチン
    3. JAK阻害薬使用中の生ワクチン接種について
  6. 接種不適当の状態から生ワクチン再接種へ移行するタイミング
    1. 薬剤の種類ごとに異なる休薬後の待機期間
    2. 血液検査で免疫状態を確認することが大切な理由
    3. 主治医と接種医が連携して決める再接種のスケジュール
  7. 皮膚疾患治療中でも打てるワクチンと同居者への接種が患者を守る
    1. 不活化ワクチンは治療中でも多くの場合接種できる
    2. 同居家族へのワクチン接種が患者を間接的に守る
    3. 接種前に必ず皮膚科・かかりつけ医に相談する
  8. よくある質問

生ワクチンを打てない理由は免疫力の低下にあります

生ワクチンの最大の特徴は、弱毒化された「生きた」病原体を使って免疫をつける点にあります。免疫機能が正常な人では問題なく処理できますが、何らかの理由で免疫力が低下している人では、弱毒化されたはずの病原体でさえ体内で増殖し、感染症を引き起こすリスクがあります。

生ワクチンと不活化ワクチン、根本的な違いは何か

ワクチンには大きく分けて「生ワクチン」と「不活化ワクチン(成分ワクチンを含む)」の2種類があります。生ワクチンは弱毒化された生きた病原体を含んでおり、自然感染に近い免疫反応を引き出すため、少ない接種回数で長期間の免疫が得られるのが特徴です。

比較項目生ワクチン不活化ワクチン
病原体の状態弱毒化された生きた病原体死滅・不活化した病原体や成分
免疫の持続強く長続きする傾向追加接種が必要な場合が多い
免疫低下者への接種原則禁忌多くの場合接種可能
代表例麻疹・水痘・黄熱・BCGインフルエンザ・肺炎球菌・B型肝炎

不活化ワクチンは殺菌・不活化した病原体やその成分を使うため、体内で増殖することはありません。インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチン・B型肝炎ワクチンなどが代表例で、免疫が低下している状態でも安全に接種できます。

弱毒化された病原体が体内で増殖するリスク

健康な免疫機能を持つ人では、生ワクチンに含まれる弱毒化病原体は自然に排除され、その過程で免疫記憶が形成されます。しかし免疫機能が著しく低下した状態では、この弱毒化が十分に機能しません。排除されずに増え続けた病原体が接種部位だけでなく全身に広がる「播種性感染」という重篤な状態に至ることがあります。

水痘ワクチンを例にとると、免疫低下状態での接種後に播種性水痘感染が報告されており、生命を脅かすケースも存在します。こうしたリスクがあるため、免疫機能が低下した状態での生ワクチン接種は、世界的なガイドラインで一貫して禁忌とされています。

接種不適当者として医学的に定められている基準

日本の予防接種法では、接種を行うことが適当でない状態にある人を「接種不適当者」と規定しています。免疫機能に関する接種不適当者として代表的なのは、免疫抑制療法を受けている患者、悪性腫瘍の治療中または治療直後の患者、造血幹細胞移植・臓器移植後の患者などです。

妊娠中の女性や、過去に生ワクチンで重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)を経験した人も接種不適当者に含まれます。また現時点では免疫機能に問題がなくても、近日中に免疫抑制療法が予定されている場合は、治療開始前に接種を済ませておくことが強く推奨されています。

免疫抑制剤を使っている皮膚疾患患者が生ワクチンを打てない理由

免疫抑制剤を使っている間は、体の免疫機能が意図的に抑えられています。そのため生ワクチンを接種した場合、弱毒化された病原体を排除しきれず、感染症を発症するリスクが高まります。

免疫抑制剤が免疫細胞に与える影響

免疫抑制剤はT細胞やB細胞などのリンパ球の働きを抑え、炎症性サイトカインの産生を低下させることで皮膚の炎症をコントロールします。シクロスポリンやタクロリムス(内服)はT細胞の活性化シグナルを阻害し、メトトレキサートやアザチオプリンは細胞の増殖を広く抑制します。こうした作用が免疫応答全体を低下させるため、生ワクチンに含まれる弱毒化病原体を安全に処理できなくなります。

皮膚疾患の治療でよく使われる代表的な免疫抑制剤

アトピー性皮膚炎・乾癬・天疱瘡・類天疱瘡といった皮膚疾患では、さまざまな免疫抑制剤が用いられます。これらの薬剤を使用中は、生ワクチンの接種が原則として禁忌となります。

薬剤名主な対象疾患生ワクチン禁忌
メトトレキサート乾癬・関節症性乾癬禁忌
シクロスポリンアトピー性皮膚炎・乾癬禁忌
アザチオプリン天疱瘡・自己免疫疾患禁忌
ミコフェノール酸モフェチル天疱瘡・ループス禁忌
タクロリムス(内服)自己免疫疾患・移植後禁忌

なお外用のタクロリムス(プロトピック軟膏など)は全身への吸収量がごくわずかであり、一般的に全身免疫を大きく抑制するとは考えられていないため、生ワクチン禁忌の対象には通常含まれません。

免疫抑制中でも接種できるワクチンの種類

免疫抑制剤を使っている間でも、不活化ワクチンであれば多くの場合接種できます。ただし免疫応答が低下しているため、健康な人に比べて抗体の産生量が少なくなる可能性があります。接種前には主治医に使用中の薬剤と用量を伝え、接種後の効果についても確認しておくとよいでしょう。

免疫抑制治療中に特に重要とされる不活化ワクチン:

  • インフルエンザワクチン(毎年の接種が推奨)
  • 肺炎球菌ワクチン(感染リスクが高いため優先)
  • 帯状疱疹の組換えワクチン(シングリックス・不活化タイプ)
  • B型肝炎ワクチン(免疫状態が未確認の場合)

ステロイドの量と投与経路で変わる生ワクチン禁忌の判断

ステロイドを使っているというだけで生ワクチンが自動的に禁忌になるわけではありません。禁忌かどうかは「どのくらいの量を」「どのような経路で」投与しているかによって大きく変わります。

外用ステロイドは生ワクチン禁忌の対象にならない

皮膚疾患の治療でもっとも広く使われる外用ステロイド(塗り薬・クリーム・軟膏・ローション)は、全身への吸収量が非常に少なく、免疫機能に与える影響はほとんどありません。外用ステロイドを使用しているという理由だけで生ワクチンの接種が禁止されることはなく、通常のスケジュールで接種が行えます。

吸入ステロイド(気管支喘息の治療薬)や関節腔内・滑液包内に直接注射するステロイドも、全身の免疫を大きく抑制するとは考えられていないため、生ワクチンの禁忌判断に通常含まれません。

全身性ステロイドで禁忌となる投与量の目安

生ワクチンの禁忌に関わるのは、内服や点滴・注射で投与される「全身性ステロイド」です。プレドニゾロン換算で一定量を一定期間使用している場合が禁忌の対象となります。

ステロイド使用の条件生ワクチン禁忌の判断
プレドニゾロン換算20mg/日以上を2週間以上継続禁忌
20mg/日未満の低用量・短期間使用多くの場合禁忌にならない
隔日投与(短時間作用型製剤)多くの場合禁忌にならない
生理学的補充用量(副腎不全の治療)禁忌にならない
外用・吸入・関節内注射禁忌にならない

プレドニゾロン換算で1日20mg以上(体重10kgを超える患者では2mg/kg/日以上)を2週間以上継続している場合、生ワクチンの接種は禁忌とされています。この用量を下回っていても、他の免疫抑制剤との併用がある場合は効果が重なり、禁忌と判断されることがあります。高用量ステロイドを中止した後に生ワクチンを接種する場合は、少なくとも1ヵ月(状況によっては3ヵ月)の間隔をあけることが推奨されています。

ステロイド治療中に接種できるワクチン

全身性ステロイドを使用していても、不活化ワクチンは多くの場合接種できます。ただし高用量ステロイド使用中は抗体産生が低下することがあるため、接種のタイミングについては主治医と相談することが大切です。インフルエンザや肺炎球菌感染は免疫が低下した患者さんで重症化しやすく、これらの不活化ワクチンは積極的な接種が推奨されています。

抗がん剤・分子標的薬と生ワクチン接種が危険な理由

化学療法(抗がん剤治療)は免疫細胞の産生を根本から抑制します。治療中はもちろん、治療終了後もしばらくの間は免疫機能が十分に回復しないため、生ワクチンの接種は厳しく制限されます。

皮膚悪性腫瘍の治療薬が免疫機能に与える影響

悪性黒色腫や皮膚リンパ腫などの治療に使われる化学療法薬は、急速に増殖する細胞を広くターゲットにするため、免疫細胞であるリンパ球にも大きな影響を与えます。シクロホスファミドや高用量のメトトレキサートは骨髄抑制を引き起こし、白血球数が著しく低下します。この状態では通常の感染症にも対抗できなくなるため、生ワクチンの接種は絶対に避けなければなりません。

近年皮膚悪性腫瘍に広く使われる免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ・ペムブロリズマブなど)はT細胞を活性化させる薬であり、従来の免疫抑制剤とは性質が異なります。ただしこれらと生ワクチンとの相互作用に関するデータはまだ限られており、主治医との慎重な相談が求められます。

治療終了後に生ワクチンが打てるまでの目安

化学療法が終了した後も、免疫機能が回復するまでには時間がかかります。一般的な目安として、化学療法終了後は少なくとも3ヵ月の待機が推奨されています。リツキシマブなど抗CD20薬を使用した場合は、B細胞が長期間抑制されるため、最終投与から6〜12ヵ月が待機期間の目安となります。

造血幹細胞移植を受けた場合はさらに長く、移植後2年以上の期間を経て接種の可否を個別に判断することになります。いずれの場合も、待機期間後に血液検査で免疫機能を評価してから接種へ進むことが基本です。

化学療法中に推奨されるワクチンの考え方

化学療法中でも不活化ワクチンは接種できますが、免疫応答が低下しているため効果が十分に出ない場合があります。それでも感染予防の観点から、インフルエンザや肺炎球菌の不活化ワクチンは、化学療法サイクルの合間を選んで接種することが推奨されることがあります。どのタイミングでどのワクチンを打つかは、担当医と事前に確認しておくことが大切です。

乾癬・アトピー性皮膚炎の生物学的製剤とJAK阻害薬で生ワクチンを避けるべき理由

生物学的製剤やJAK阻害薬は特定の炎症経路を標的にする選択的な治療薬です。従来の免疫抑制剤とは異なる作用機序を持ちますが、それでも生ワクチンとの組み合わせには慎重な対応が求められます。

アトピー性皮膚炎の生物学的製剤(デュピルマブなど)とワクチンの関係

デュピルマブ(商品名:デュピクセント)はIL-4とIL-13のシグナルを選択的に阻害するアトピー性皮膚炎の主要な生物学的製剤です。Th2系の免疫経路だけを標的にするものであり、全身の免疫機能を広く低下させるわけではありません。しかし現時点では生ワクチンとの組み合わせに関する十分な安全性データが蓄積されておらず、製品添付文書では生ワクチンの使用を避けることが推奨されています。

小児を対象とした臨床試験でMMRワクチンの誤接種が生じた事例では、重篤な有害事象は確認されなかったとする報告もあります。それでも安全確認が優先されるため、デュピルマブの治療を始める前に接種を済ませておくか、不活化ワクチンへの切り替えを主治医と相談することが望ましい対応です。

乾癬治療に使われるTNF・IL-17・IL-23阻害薬と生ワクチン

乾癬に用いられる生物学的製剤は多岐にわたります。薬剤クラスによって免疫抑制の強さが異なるため、生ワクチンへの対応も異なります。

薬剤クラス代表的な薬剤名生ワクチン対応
TNF阻害薬アダリムマブ・インフリキシマブ・エタネルセプト禁忌
IL-17阻害薬セクキヌマブ・イキセキズマブ原則避ける
IL-23阻害薬グセルクマブ・リサンキズマブ原則避ける
IL-12/23阻害薬ウステキヌマブ原則避ける
抗CD20薬リツキシマブ禁忌(中止後6〜12ヵ月待機)

TNF阻害薬は免疫抑制作用が比較的強く、生ワクチンは明確に禁忌とされています。IL-17・IL-23阻害薬は全身感染リスクがTNF阻害薬より低いとされていますが、生ワクチンについては同様に慎重な対応が必要です。生物学的製剤による治療が予定されている場合は、開始の4週間以上前に接種を完了させることが推奨されています。

JAK阻害薬使用中の生ワクチン接種について

アトピー性皮膚炎や乾癬に承認されているJAK阻害薬(バリシチニブ・アブロシチニブ・ウパダシチニブなど)は、複数の炎症シグナル伝達経路を同時に抑制します。TNF阻害薬と比較してより広範な免疫抑制作用があるとされており、治療中だけでなく中止後も一定期間は生ワクチンが禁忌となります。

JAK阻害薬使用中に接種を避けるべき主な生ワクチン:

  • 水痘・帯状疱疹の生ワクチン(ゾスタバックス)
  • 麻疹・風疹・おたふく風邪の混合ワクチン(MR・MMR)
  • 黄熱ワクチン
  • BCGワクチン
  • 経口腸チフスワクチン(国内での使用は限定的)

帯状疱疹の予防については、生ワクチン(ゾスタバックス)の代わりに不活化の組換えワクチン(シングリックス)を選択することで、JAK阻害薬使用中でも接種が可能です。2021年に米国食品医薬品局(FDA)が組換えワクチンの適応を免疫低下状態の成人にも拡大しており、JAK阻害薬を使う患者さんにも積極的な接種が推奨されています。

接種不適当の状態から生ワクチン再接種へ移行するタイミング

治療が落ち着いて薬剤を減量・中断できても、すぐに生ワクチンを打てるわけではありません。薬剤の種類と治療期間によって、安全に接種できるまでの待機期間は異なります。

薬剤の種類ごとに異なる休薬後の待機期間

生ワクチンを再開するための待機期間は、使用した薬剤の半減期や免疫機能への影響の深さによって異なります。以下はあくまでも一般的な参考値であり、実際の判断には血液検査の結果と主治医の評価が求められます。

薬剤の種類生ワクチン再開までの目安
高用量全身性ステロイド中止後少なくとも1ヵ月
メトトレキサート・アザチオプリン中止後3ヵ月
生物学的製剤(TNF阻害薬など)中止後3〜6ヵ月(半減期により異なる)
リツキシマブ(抗CD20薬)最終投与後6〜12ヵ月
JAK阻害薬中止後少なくとも4〜6週間
化学療法終了後少なくとも3ヵ月

血液検査で免疫状態を確認することが大切な理由

待機期間が終わっていても、免疫機能が十分に回復していなければ生ワクチンは打てません。白血球数・リンパ球数・免疫グロブリン(IgG)値などの血液検査結果が、接種の可否を判断する重要な指標になります。特にリツキシマブのようにB細胞を長期間抑制する薬剤を使った後は、末梢血のB細胞が回復したことを確認することが安全な接種の前提条件です。

数値が参考範囲内に戻っていても、主治医が総合的に安全と判断するまで接種を待つことが再接種の第一歩となります。血液検査の数値だけでなく、基礎疾患の活動性や全身状態も合わせて評価されます。

主治医と接種医が連携して決める再接種のスケジュール

生ワクチンの再開を検討する際は、皮膚科の主治医と実際に接種を行う医師(かかりつけ医や接種クリニック)が情報を共有することが求められます。主治医から接種医への情報提供書があると、接種医が治療歴を把握した上で適切な判断を下しやすくなります。また治療を再開する予定がある場合は、生ワクチン接種から治療再開まで少なくとも4週間の間隔を設けることが推奨されています。

皮膚疾患治療中でも打てるワクチンと同居者への接種が患者を守る

不活化ワクチンの積極的な活用と、同居する家族へのワクチン接種が、治療中の患者さんを感染症から守る大きな力になります。生ワクチンが禁忌でも、できることは多くあります。

不活化ワクチンは治療中でも多くの場合接種できる

不活化ワクチンは生きた病原体を含まないため、免疫が低下している状態でも安全に接種できます。免疫機能が低下している分、抗体価が上がりにくい場合がありますが、感染予防の効果はある程度期待できます。インフルエンザ・肺炎球菌・帯状疱疹の組換えワクチン(シングリックス)・B型肝炎・HPVなどは、皮膚疾患治療中の患者さんにも接種が推奨されており、一般集団よりも若い年齢から接種の対象となることもあります。

治療開始前に接種が済んでいれば、より高い免疫反応が期待できます。新たな皮膚疾患の治療を始める前に、接種履歴を確認して必要なワクチンを済ませておくことを主治医に相談してみましょう。

同居家族へのワクチン接種が患者を間接的に守る

免疫が低下している患者さんの身近にいる家族は、自分が感染源になるリスクを下げるためにも積極的にワクチン接種を受けることが大切です。家族が麻疹・風疹・水痘・インフルエンザのワクチンを接種していれば、家庭内での感染リスクを大幅に減らせます。生ワクチンを接種した同居者が感染源になるリスクはきわめて低いとされていますが、水痘ワクチン接種後に発疹が出た場合は患者さんとの直接接触を一時的に避けることが無難です。

接種前に必ず皮膚科・かかりつけ医に相談する

どのワクチンをいつ打てるかは、使用中の薬剤・投与量・治療期間・基礎疾患の活動性によって異なります。「このワクチンなら大丈夫だろう」と自己判断して接種することは避け、皮膚科の主治医またはかかりつけ医に必ず相談した上で、接種の可否と時期を決めてください。接種の際は接種医にも現在の治療内容を正確に伝えることで、より安全な対応が期待できます。

よくある質問

Q
免疫抑制剤を服用中でも、不活化ワクチンは接種できますか?
A

免疫抑制剤を使用中でも、不活化ワクチンは多くの場合接種できます。不活化ワクチンには生きた病原体が含まれないため、免疫が低下した状態でも増殖するリスクがありません。

ただし免疫応答が低下していることで抗体がつきにくい場合があります。インフルエンザや肺炎球菌などの不活化ワクチンは特に重要で、皮膚疾患で免疫抑制中の患者さんには積極的な接種が推奨されています。接種前に主治医へ使用薬剤と用量を伝えておくと、適切なアドバイスを得やすくなります。

Q
外用ステロイドだけを使っている場合、生ワクチンを打てますか?
A

外用ステロイド(塗り薬・軟膏・クリームなど)は皮膚からの全身吸収量がごくわずかであり、全身の免疫機能を大きく抑えることはありません。外用ステロイドだけを使用しているという理由で生ワクチンが禁忌になることはなく、通常のスケジュールに従って接種できます。

ただし外用ステロイドと並行して全身性ステロイドや他の免疫抑制剤も使っている場合は、それらの薬剤を考慮した判断が必要です。心配な点があれば、皮膚科医やかかりつけ医に確認することをお勧めします。

Q
アトピー性皮膚炎でデュピルマブを使用中に生ワクチンを打つとどうなりますか?
A

デュピルマブはIL-4とIL-13という特定の炎症経路を選択的に阻害する薬です。全身の免疫機能を広く低下させる従来の免疫抑制剤とは性質が異なりますが、生ワクチンとの組み合わせに関する十分な安全性データはまだ揃っていません。

製品添付文書では生ワクチンの使用を避けることが推奨されています。小規模な臨床試験の事例では重篤な有害事象は確認されていませんが、安全確認が優先されます。デュピルマブの治療を始める前に接種を済ませておくか、不活化ワクチンへの切り替えについて主治医に相談することが望ましい対応です。

Q
皮膚がんの抗がん剤治療が終わった後、生ワクチンの接種を再開するまでどのくらい待てばよいですか?
A

一般的な目安として、化学療法終了後は少なくとも3ヵ月間の待機が推奨されています。リツキシマブなど抗CD20薬を使用した場合は、B細胞が長期間抑制されるため、最終投与から6〜12ヵ月と、さらに長い待機期間が必要となります。

ただしこれらはあくまで参考であり、実際の接種可否は白血球数・リンパ球数・免疫グロブリン値などの血液検査で免疫状態を確認した上で、主治医が個別に判断します。自己判断で接種せず、必ず担当医に相談してください。

Q
帯状疱疹ワクチンは、免疫抑制治療中でも接種できますか?
A

帯状疱疹のワクチンには2種類あります。生ワクチンである「ゾスタバックス」は免疫抑制中には禁忌ですが、不活化の組換えタンパクワクチンである「シングリックス」は、免疫が低下した状態でも接種が可能です。

シングリックスは2021年に米国食品医薬品局(FDA)が免疫低下状態の18歳以上の成人にも適応を拡大し、免疫抑制薬を使用中の患者さんにも積極的な接種が推奨されています。帯状疱疹は免疫が低下している状態で特に発症しやすいため、接種のタイミングや回数については主治医に相談することをお勧めします。

参考文献