院長が寄稿した分を転記致しました。
皮膚病治療においては「副腎皮質ステロイド外用剤」(以下ステロイド剤と略します)がしばしば使用されます。
例えば湿疹、皮膚炎、虫刺され、乾癬、痒疹(痒い皮膚のかたまり)、円形脱毛症などに効果があります。
しかしながら薬の表記には「外用副腎皮質ホルモン剤」または「外用合成副腎皮質ホルモン剤」と記されています。
化学(科学)的に生物が自分のために体内でつくったものがホルモンと言われ、合成または科学的につくられたものはホルモン剤とはいえません。
薬学・科学に精通していない方が間違えて命名したものが今日まで法律的・行政的に通用しております。
そこで科学者は正式に「副腎皮質ステロイド剤」と呼んでおり、このようなことから世間で一般的な誤解が始まったと思われます。
なお、ドーピングで使われる「アナボリックステロイド」とも異なります。
この記事を書いた医師
名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。
本文中の上付き数字1)2)3)は論文引用箇所で文末に論文名を記載しています
ステロイド外用剤の使用不安について
某ニュース番組において、ステロイドが悪いというような報道をしたことは、国民に悪い印象を与えたと思われます。
(その後その番組は閉じました)
なお、いわゆる「アトピービジネス」(アトピー性皮膚炎患者を対象とし、医療保険診療外の行為によってアトピー性皮膚炎の治療に関与し、営利を追求する経済活動)からしてもステロイド剤は商売敵なので、徹底的にステロイド剤は悪い薬と世の中に広められたという歴史があります。
どちらを信じるかは皆さまにお任せします。
また、ステロイドが入っていない安全な薬といわれて、湿疹・皮膚炎によく効いたが、実は最強ランクのステロイド剤が含有していた事件が少し前に横浜市でありました。
昔「ガマの油」と称した外用薬がありました。つくば山麓の四六のガマガエルが上質とのことですが、実際は馬油(ばーゆ)すなわち馬の脂肪です。
動物性の脂なので天然由来の副腎皮質ホルモンが含まれており、経験的に使われたものです。
地方で馬肉を疼痛部に用いたのは、副腎皮質ホルモンが有効だったと考えます。
馬油などを使いやすくしたものがステロイド剤と考えてください。
また、主剤(副腎皮質ステロイド剤のこと)の濃度は0.05%~0.12%程度。さらに外用薬なので体内に入るにも限界があります。
(体内には2.5%程度吸収されると言われています)
一部の市販薬、すなわち保湿剤・皮膚保護剤・やけどの薬にも副腎皮質ステロイド剤が配合されているものが数多く見られます。
副腎皮質ステロイド剤の使用方法
1FTUという単位があります。
Finger-TipUnitの略で、人差し指の先端部に5gチューブ剤の中身を押し出した量です。平面では訳5cm長で約0.5gになります。
(指では圧力がかかり約3.5cm位)
これを1回につき、成人の手のひら2つ分程度の広さの使用が標準量と言われています。
身体の全面なら3~4g、片下肢なら3~4.5g、全身ならば20~25g位です。
副腎皮質ステロイドの副作用
副作用については、短期で使用する場合にはまず問題にならないと思います。
長期使用(数か月から数年)の場合は、皮膚のひ薄(皮膚が薄くなること、顔面では赤くなります)、ニキビ、毛包炎、脱色作用、皮下出血(紫色のあざ)、多毛(頭部には都合がいい)などです。ちまたで言われている色素沈着(黒くなること)はありません。
また、治療を続けなければならないときにステロイド剤を不用意に中断すれば、皮膚病は再燃します。
これをリバウンド(現象)といいます。それを「アトピービジネス」が「恐ろしいもの」と誇張されただけです。
おわりに
1、2回くらい処方された程度では、ステロイド剤を使い切っても構いませんが、大量に長期に使用されるときは主治医に相談してください。
上手に使用すればいい薬です。ステロイド剤を使用せずに不幸な転機となった方が報告されております。