風が吹くだけで痛いという痛風。最近は痛風鍋なんてものもあるけれど、実際どんな症状が出るのでしょうか。リウマチや感染症とも間違えられやすく、しばしば医者を悩ませる複雑怪奇な痛風。
でも治療は単純です。ビールや魚卵が大好きなあなたも、尿酸値が高くて怖いあなたも、これで心の準備も対策もできるはず。そんなの嫌だという方は内科でご相談を。
そもそも痛風の症状とはどのようなものでしょうか。世間一般では足の指の付け根が痛むというけれど、そう簡単には説明できないのが痛風です。
かつてNHKではドクターGという「この症状はなんの病気でしょうか?」というクイズ番組(厳密には鑑別診断という、病気を見分けて診断する番組ですが‥)がありました。
そういった話題のときに医者を悩ませる病気の一つがこんなにありふれた病気「痛風」なのです。
この記事のポイント
- 痛風の症状は炎症の4兆候~発赤・腫脹・疼痛・熱感~
- 足の親指の付け根だけでなく、冷えるところに起こります
- 病院では血液などの検査と痛み止めの応急処置をします。
- 病院に行けないときは炎症に対する応急処置、休んで冷やして心臓より高くする。
- 放置すると腎臓が悪くなってしまうかもしれません。全身にもこぶが‥
この記事を書いた医師
名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。
本文中の上付き数字1)2)3)は論文引用箇所で文末に論文名を記載しています
痛風の症状の特徴~キーワードは炎症の4兆候、発赤・腫脹・疼痛・熱感~
いたたたた‥足の親指が痛い!すごく痛い!なんか真っ赤にはれ上がってるし、すごく熱い!
もしかしてこれはあれか、痛風ってやつか?
健康診断で尿酸の値が高いって言われたし、最近ビール飲む回数増えたからなあ‥
でも痛風って言葉ではよく聞くけど、実際にはどんな病気なんだろう。
まず痛風が何かという話になりますが、ガンガゼ(ウニがとんでもなく尖っているような海の生き物)みたいな尿酸の結晶…凶悪な雪の結晶とでも言いましょうか。
この尿酸の結晶が身体の中にできてしまい、びっくりしたみなさんの免疫が働き、関節で炎症を起こしてしまうという病気です。
炎症とは身体が起こす反応で、
- 発赤(赤くなる)
- 腫脹(腫れあがる)
- 疼痛(いたい)
- 熱感(熱くなる)
の4つの兆候があります。
それが関節に起こってしまうのが痛風です。
少しびっくりした程度なら部分的なものなのでまだマシなのですが、皆さんの免疫があまりにもびっくりすると、熱が出たり節々が痛くなったりだるくなったりと全身に症状が出てしまいます。
そのため、痛風はしばしば全身の病気、つまり感染症やリウマチなどと間違えられやすいのです。
関節にばい菌が入ってしまう(化膿性関節炎)、自分の免疫が自分の関節を攻撃してしまう(リウマチなど膠原病)でも同じように関節の炎症から全身に広がる熱が特徴。
それらを区別するためには検査をする必要があります。
痛風の症状が出る部位~ポイントは、冷えるところ~
ううう‥なんでこう、よりによって足にできるんだろう。これじゃ痛くて歩けないよ。
でも、歩かないわけにはいかないし、困った‥
もちろんほかのところでも困るんだけどさ…あれ、もしかしてほかのところにもできる?
関節といってもどこの関節にできるわけではありません。やはり知られているのは足の指の付け根ですが、なぜそこが一番痛風を起こしやすいのでしょうか。
ずばり、足の指の付け根が身体の中で一番先のほうにあって、冷えやすいから。
先ほど話した尿酸の結晶(ガンガゼ)は、血液の流れが悪くて冷えやすいところに溜まりやすいのです。
実に最初の発作の70%近くが足の指、特に親指の付け根で起こっています。
一方で20%未満にはなりますが、いろんな関節に同時多発的に発作が起こることも。
ほかの関節も同様に冷えやすく血の流れが悪いところが尿酸結晶のターゲットに。
皆さんが冷えを感じやすいところ、具体的には手(手の指や手首)、足(足の指、足首、かかと、くるぶし、足裏、足の甲)、肘や膝が危ないのです。
また、肩、股関節(足の付け根)、鎖骨の関節に起こることもあります。
普通は同時に一か所しか発作は起こりませんが、あまりにも尿酸結晶が溜まりすぎていると(慢性化)同時にあちこちが痛む、ということも珍しくありません。
痛風の症状が疑われる場合に行うこと~ほかの病気も気になります~
早く病院行かないとなあ。でも、病院で一体何をするんだろう。
そもそもこれは本当に痛風なのかな。
おばあちゃんがリウマチだったんだけど、同じような感じになっていたような…
そういえばおじさんも似たようなことになっていて、長いこと入院してたっけ。
もしそうなったらどうしよう…
まず医療機関ですることは、それが本当に痛風なのか、それとも痛風ではない病気(化膿性関節炎、リウマチなどの膠原病のほか、偽痛風という名前の通り痛風の偽物みたいな病気も)なのかの検査です。
最初にそれぞれ関節の症状以外に起こりうる別の症状(合併症)が異なりますが、疾患によっては深刻なことになってしまいます。
そのため、しっかり鑑別診断(診察や検査で病気を見分けて診断する)をすることが大切なのです。次に必要なことは、先ほどお話しした合併症があるかどうか、どれだけ深刻かの確認です。
どこでも必ず行われる検査としては血液検査や尿検査があります。
加えて施設によっては関節穿刺検査(関節にある液体、その名も関節液を針で吸って検査をすること)、X線検査(いわゆるレントゲン検査)や超音波検査(いわゆるエコー検査)もすることが。
あまりにも痛みがひどい場合は、検査と並行して痛み止めの治療をするかもしれません。座薬が早く、そして強力に効きますので、提案された場合は嫌かもしれませんがそちらをお勧めします。
痛風の症状が続く期間~耐えることもできますが‥~
それにしても痛い。文字通り風が吹くだけで痛い。しかもどんどん痛みが強くなっていく。
この痛みはいつまで続くのだろう。せめて終わりが見えたら耐えられるのだけど…ずっと続いたら寝たきり生活になっちゃうよ…
発作、というからには痛みは突然やってきます。中には予兆(むずむず、ピリピリといった違和感や火照った感じなど)があったという方もいるかもしれません。
発作が起こってからの痛みのピークは24時間程度で達します。その後の症状そのものは、放置しても7-10日間で治まることが多いです(逆に治まらない場合はほかの病気を考えなくてはなりません)。
症状を緩和する方法~どうしても受診ができないあなたへ~
あー、本当に痛い!早く病院に行きたい!
でも、どうしても休めない仕事があって、仕事が終わらないと行けないんだよなあ。
とりあえず今だけでも痛みをなんとかしたいんだけど、どうすればいいのだろう…
ひとまずドラッグストアの薬でしのげないかなあ。
痛風に限らず一般的な炎症全てに言えることですが、基本は炎症を起こした場所を
- 動かさない
- 冷やす
- 心臓より上にあげる
ことが痛みを良くしたり、治りを早くしたりと炎症を鎮める効果があります。
スポーツをしている人なら、RICEという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
ケガをしたときに行う基本的な処置の頭文字を取った言葉です。
- Rest(安静)
- Icing(冷却)
- Compression(圧迫)
- Elevation(挙上)
ですが、痛風の場合は内側からのダメージなので圧迫する部位がありません。しかし、基本は炎症に対する対応として覚えておくと役に立つと思います。
次に病院を受診して治療してほしいところですが、そう簡単に受診できない方も多いと思います。
その場合はドラッグストアに売っている非ステロイド性抗炎症薬(通称NSAIDs、Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugsの略)です。
イブと呼ばれるイブプロフェンや、ロキソニンと呼ばれるロキソプロフェンなどが該当します)を使用するのが良いと思われます。塗ったり貼ったりする(外用)よりも、飲み薬や座薬のほうが効果的です。
これは痛風の治療方法の一つですが、痛風治療のための飲み方は少々特殊なので、一時しのぎにとどめておいて医療機関を受診したほうが良いかもしれません。
尚、痛風をこじらせている人の中には痛風腎といって腎臓を傷めている人(慢性腎臓病)もいると思いますが(これについては次の項目で説明)、腎臓が悪い人にNSAIDsを使うことはできません。
そういった方は医療機関の受診をお願いいたします。
放置するとどうなる?~腎臓や全身にダメージが~
痛み止めで痛みが治まったぞ。なんかピークも過ぎたみたいだし、無理して病院に行かなくてもいい気がしてきた‥待つし、お金かかるし。
でも、またなったら嫌だしなあ。尿酸が高いとやっぱりまたなるのだろうか。
それに、ほかのことも起こったら心配だなあ。病院…行こうかな…
痛みそのものは放置しても自然と治まります(それまで痛いと思うので早めに治療したほうが良いと思いますが)。
しかし問題なのはその後。一度痛風発作を起こしたということは、痛風ができやすい体質(痛風体質とでも呼びましょうか)になってしまっているということです。
つまり、辛かった発作が何度も何度も、身体のあちこちに起こってしまうということになります。体中ガンガゼだらけと考えると怖いですね。
関節が痛いだけならまだいいのですが、一番恐ろしいのは痛風腎という、腎臓に尿酸結晶が溜まり、慢性腎臓病(通称CKD、Chronic Kidney Diseaseの略です)になってしまうことです。
腎臓病がどんどん進むと慢性腎不全となり、むくみ、貧血、倦怠感、息切れなどの症状が出てしまいます。あまりにもその程度が酷いと、末期腎不全となり透析や腎移植が必要になる方も。
また、腎臓以外にも全身のあちこちに尿酸結晶が溜まると、「痛風結節」というこぶが体中にできてしまいます。その正体は、尿酸の結晶とそれに対抗して身体の免疫が作った「肉芽」が混じったものです。
これ自体は痛くないのですが、こぶによって関節が動かしにくくなったり、関節の形が変わったりしてしまいます。
まとめ
- 痛風は尿酸がガンガゼみたいに固まって関節に溜まる病気
- 炎症の4兆候(発赤・腫脹・疼痛・熱感)は痛風にも起こるしほかの病気にも起こる
- 似た病気にご注意
- 病院に行かなくてもある程度はしのげる
- でも放置すると腎臓がダメになるかもしれない
ということで、ドキッとした方はどうぞお近くの医療機関へ受診をお願いします。