また脇だけびっしょりしてる…これから商談なのに、スーツまでぐっしょりしたらどうしよう。
脇汗、悩みの種ですよね。見た目悪いし、臭うし。
かと言って脇汗パッドやいちいち制汗剤使うのもうっとおしい。でも、最近はいい薬が出たんです。
これから脇汗の仕組みと治療について学びましょう。
この記事のポイント
- 脇汗は理由があるのとないのとがある。汗の種類も2種類。
- 脇汗そのものより、そのせいで精神的に追い詰められるのが問題。
- 診断はチェックリストで。
- 治療は脇汗を出す命令を止めること、汗が出る穴を塞ぐこと。
- 脇汗だけを止めると身体のほかの部分から汗が出ることも。
- 治療法によっては思わぬ副作用が出ることも。医師と相談を。
この記事を書いた医師
名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。
本文中の上付き数字1)2)3)は論文引用箇所で文末に論文名を記載しています
脇汗にはいろいろ種類がある?
医学的には腋窩多汗症と言います。腋窩(わき)多汗症(汗がいっぱい出る)ということ。その中には原発性(理由もないのになる)腋窩多汗症と続発性(病気や薬の影響で出る)腋窩多汗症の2種類があります。
他の部分は大丈夫なのに脇汗ばかり出る人もいれば(局所多汗症)、全身から汗が吹き出る人まで(全身性多汗症)。そして、脇汗は2種類あります。それぞれ突き詰めましょう。
脇汗の原因を知って改善しよう 身体の機能や病気など
脇には2種類の汗
サウナに入ると全身からサラサラした汗が吹き出ますよね。これがエクリン腺という汗を出す袋から出る汗。腺とは、何かを出す組織という意味です。
一方、脇だけベタベタする汗が出る人も。こちらはアポクリン腺の汗です。
エクリン腺の汗は交感神経の命令
エクリン腺は全身に存在します。だから全身から汗が吹き出るわけですね。エクリン腺から汗を出すよう命令してるのは、交感神経という自律神経です。
自律神経とは、勝手に身体になんか命令するやつ。交感神経と副交感神経があります。交感神経は「fight and flight」(戦うか逃げるか)という作用が。どっちにしても、ハラハラするものですよね。
一方副交感神経はリラックス神経。この2つは相反するものです。
というわけでハラハラすると汗がでるのは交感神経の仕業なのです。
神経から神経へ命令を伝える神経伝達物質
さて、体の中の神経は一つの細胞でできているわけではありません。たくさんの神経細胞が並んで、命令の伝言ゲームをしているのです。命令と言っても単純。「動くか、動かないか」これだけ。
こんな単純なので、伝言ゲームも「するか、しないか」という単純なものです。
いざ伝言ゲームをするときには、どんな風に伝えるのでしょう。神経細胞から神経細胞に伝わる伝言、これが「神経伝達物質」です。名前のとおり、神経を伝達(伝言)するもの、ということ。
この神経伝達物質、神経によって何なのかが違います。
心をリラックスさせることで有名なGABAも、なにかに熱中するときにドバドバ出ているドーパミン(ドパミン)も、身体がそうなるように仕向けられた神経伝達物質。
そして交感神経の場合は「ノルアドレナリン」(アドレナリンのもと)、副交感神経の場合は「アセチルコリン」です。では汗を出すよう伝言するのはノルアドレナリン?いやいや、字をよく見てください。
「汗散るコリン」アセチルコリンです(汗の交感神経だけ特別です。アセチルコリンって名前つけた人は日本語知ってたんですかね?)。
アポクリン腺は性ホルモンによるフェロモン
一方アポクリン腺は身体の特別なところにしか存在しません。ワキ、おっぱい、耳、デリケートゾーン…この違いは、汗が出る理由から来ます。
エクリン腺の汗の役割は、体温を下げること。打ち水と同じ。一方アポクリン腺の役割はフェロモン…異性を惹きつけるための汗、というか香水。
ただ、不幸なことにそのままでは皮膚にいる細菌が悪さをして、くさい臭い…ワキガになってしまうのですが。
異性を惹きつけるためのホルモンですから、出すよう命令するのは性ホルモンです。
結局原因は?
こういう仕組みで出る、とはお話しましたが、ではなぜ出るのかと言う話が肝心ですね。
「原発性腋窩多汗症」の場合、理由は残念ながらわかっていません。わかってなくて、理由なく出てしまうから「原発性」というわけです。
一方で「続発性腋窩多汗症」の場合はいろんな原因があります。
例えば冷や汗。交感神経のせいで汗がでると話しましたが、ドキドキハラハラでいわゆる「身震い」したときに冷や汗がバッと出るのがイメージできると思います。
ですから、交感神経に関わる病気になると多汗症になってしまうのです。
例えば褐色細胞腫という病気があります。交感神経が活発になってしまう病気ですが、これがあると多汗症に。
パーキンソン病やレビー小体型認知症も自律神経に影響が出てしまうので、多汗症になることも(逆にシャイ・ドレーガー症候群という、やはり自律神経に影響が出る病気は汗が出なくなります)。
その他の理由で多汗症になる人もいます。有名なのは更年期障害のホットフラッシュ。ホルモンバランスの崩れで突然わっと火照りや汗が出てしまうこと。
バセドウ病などで甲状腺のホルモンが活発な人も、代謝が良くなり(すぎて)多汗になります。
怖い話を言うと、悪性リンパ腫(がんの一つ)がある人はパジャマを着替えなければならないほどの寝汗をかくこともあります(盗汗)。
自律神経失調症とは
自律神経の話がたくさん出ました。自律神経というと、みなさんよく「自律神経失調症」という言葉を聞くかと思います。
そして先程から紹介している自律神経がおかしくなる病気は、どれもとんでもない難病です。
え、自分ってそんな難病なの!?と驚かないでください。
変な話ですが、内科的に自律神経失調症の自律神経は正常です。自律神経失調症とは精神科の話。
自律神経自体は病気じゃないけど、不安やストレスが原因でちょっと身体におかしな感じがする状態のことを一般的に自律神経失調症と呼びがちな話です。
ネットで検索しても、あまり大きな医療機関や行政のページはなかなか出てこないと思います。東邦大学のページに詳しく書いてありますね(https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/sakura/neurology/guide/treatment/treatment11.html)。
つまり、みなさんがよく聞く言葉の「自律神経失調症」は不安やストレスから感じるもので、医学的に使う言葉ではありません。ですから、精神科の薬を使うことで楽になる方も多数います。
逆に医師から難病でもないのに「自律神経が〜」と言っていた場合は、皆さんにすっきり現状を伝えられるように使っていることが多いです。
なので、難病!?って心配しないでくださいね(それでもなかなか困った症状であることはかわらないので、適切な医療機関を受診してください)。
脇汗が引き起こす精神的な症状について 多汗症が引き起こす心の負担
エクリン腺・アポクリン腺共通の症状
汗がじわっと服に染み出して恥ずかしい、という方は多いと思います。腕を上げると脇汗のあとが見えて恥ずかしい思いをするからと、身体の動きが制限されてしまう人も。
また、いわゆる「汗臭い」原因にも。汗がたくさん出ていると、自分が臭いのではないか?と常に疑ってしまう(自臭症)ことにも繋がります。
つまり、どんどん精神的に追い詰められてしまうということが二次症状(ある症状がきっかけで起こってしまう別の症状)として問題になります。
その結果、社交不安障害(social anxiety disorder:SAD、いわゆる対人恐怖症やあがり症、脇汗がが気になって他人と接することが怖い) 、強迫性障害(Obsessive Compulsive Disorder:OCD、脇汗が心配で何度も脇を拭く、服を取り換える)といった精神疾患に陥ってしまうことも。
アポクリン腺による汗独特の症状
アポクリン腺から出る脇汗の場合はさらに複雑。先ほど「もともとフェロモンという異性を惹きつける香水なのに、皮膚にいる細菌が悪さをしてくさい臭い(わきが)にしてしまう」という話をしました。
先ほどの「共通の症状」でお話しした精神的な問題、アポクリン腺による汗の方が問題になりがちです。逆にわきがでないのに「自分はわきがかもしれない」と思い込んで精神的に追い詰められる人も。
また、アポクリン腺から出る脇汗は黄色いのも特徴。その結果、服や下着が黄ばんでしまうという問題もあります。
詳しくはこちら(https://oki.or.jp/underarm-odor/)をご覧ください。
脇汗(腋窩多汗症)の診断方法を知っておこう 医療機関での検査や自宅でのチェック方法
続発性か、原発性か
まずは「何か理由があって脇汗が目立つ」(続発性)のか、「何もないのに脇汗が目立つ」(原発性)かを診断する必要があります。それによって対処法もまったく異なるからです。
続発性の場合は、何かほかに症状があるはず。体重が増えたり減ったり、立ち眩みがあったり、健診で何か言われていたり、そもそも何かの病気の診断がついていたり…
むしろ、そちらに対して皮膚科でない科を受診されることが多いかもしれません。
それらしくないというときに「原発性腋窩多汗症」の診断となります。
原発性腋窩多汗症の診断
日本皮膚科学会のガイドライン(偉い人がすごい論文達を参考にして、みんなで作った指標)によると、原発性腋窩多汗症の診断基準(これを満たせば診断となります、という項目)は以下の通り。
原因不明の過剰な脇汗が6ヵ月以上続く人の中で
- 左右対称に、両脇に汗が出る
- 脇汗をたくさんかくことで日常生活に問題がある
- 週1回以上の頻度で脇汗をかく
- 血のつながった親戚に同じ症状の人がいる(家族歴がある)
- 眠っている間は脇汗が出ない
- 25歳未満で脇汗が目立つようになった
のうち2つ以上にチェックが付いた場合を原発性腋窩多汗症と診断します。
原発性腋窩多汗症の重症度チェック
次はどれくらい重症かの検査。汗を測る検査と、症状から判断する方法があります。
汗を測る検査としてはヨードの紙や液体を使う方法、汗の重さを測る方法、汗の蒸気を測る換気カプセル法などが。
どれくらい汗が出て、治療でどれくらい良くなったかがわかりますが、なかなか検査をすることは大変です。
実際にはセルフチェックできる「Hyperhidrosis Disease Severity Scale」(HDSS、多汗症の重症度スコア)を使うことがほとんど。
- 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
- 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
- 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
- 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある
の4段階に分かれます。
脇汗(腋窩多汗症)の治療法と改善策 医療機関での治療
脇汗を出すよう命令する交感神経を断て
「脇汗の原因」の項目で交感神経が脇に汗を出すよう命令している、と説明しました。そして、神経の伝言ゲームをしているのは「アセチルコリン」という物質ということも。
ならば話は簡単、交感神経やアセチルコリンの邪魔をすれば汗が出なくなる、というわけです。
具体的には、
- (商品名 エクロックゲル)を塗る
- (商品名 ラピフォートワイプ)を塗る
- ボツリヌストキシン(商品名 ボトックス)を注射する
- 手術
が挙げられます。
まずは塗り薬の2種類。正直、同じようなものです。違いは塗り方と塗り心地。
エクロックはゲルタイプ。ボトルからゲルを出して、脇に塗ります。一方ラピフォートワイプはウェットティッシュタイプ。薬でビショビショのティッシュを脇に塗ります。1日1回、乾かしたら終わりです。
アセチルコリンの邪魔をして、汗を出す命令をブロックする、というものです。
一方の一方のボトックスは注射です。もともとボツリヌス菌という地球最強の毒を出すとんでもない菌がいるのですが、その怖さは「神経を麻痺させる」というもの。
人間って恐ろしいですね、その作用に着目したのです。薄めて薄めて、注射したところにだけ毒が回るように改良しました。
神経を麻痺させる、つまり脇汗用の交感神経を麻痺させる。こうして汗を出す命令をブロックします。
ボツリヌス菌については「わきが」https://oki.or.jp/underarm-odor/「すそわきのページで散々語り尽くしてしまったのでそちらを参照してください。
でも、本当は「もやしもん」を読んでほしいです。ボツリヌス菌(クロストリジウム・ボツリナム)、悪い意味で大活躍。かわいいんですけどね。
手術はその交感神経を物理的に切ったり焼いたりしてしまう(交感神経遮断術)方法。
かつては大がかりな手術でしたが、技術が発展した今は傷跡も少なく、時間も数十分とあまり多くはかかりません。
汗が出る穴を塞げ
神経が汗を出すよう命令した結果、汗は「汗腺」という穴から汗を出します。その出口を防ぐ作戦、ということも。「塩化アルミニウム」という薬を塗ることで汗腺をブロックします。
こちらの薬は液体タイプと軟膏タイプがありますが、軟膏タイプのほうが効きます。効き目はボトックス並み。ただし保険が効かないので、クリニックで調合した薬をお出しする形となります。
形や濃度、塗り方もクリニックによってさまざま。
脇汗(腋窩多汗症)治療の注意点と副作用 治療法を選ぶ上で注意すべきリスクと、回避方法
いろいろな治療法を紹介しましたが、副作用もいろいろ。
脇汗だけを減らしたら、その分ほかの汗が増える
共通して起こり得ることは、「脇汗だけをブロックしたら、その分ほかの場所から汗が出てしまうということ。(代償性発汗)こうなってしまったら、全身性多汗症の治療(飲み薬など)を検討することになります。
塗り薬にはどうしても「かぶれ」がつきもの
「エクロックゲル」「ラピフォートワイプ」「塩化アルミニウム」といった塗り薬は、「接触性皮膚炎」(かぶれ)という副作用が起こることも。
これらにかかわらず、「何かを塗る」ということは、それにかぶれるという可能性がどうしても付きまといます(かぶれの治療薬はステロイドの塗り薬ですから、ステロイド単体ではかぶれません)。
交感神経の伝令役「アセチルコリン」をブロックした場合(エクロックゲル、ラピフォートワイプ)
お話ししたようにアセチルコリンは本来副交感神経(リラックス神経)の伝令役ですが、汗に関しては交感神経の伝令もするということで、アセチルコリンをブロックすることが治療に結びつきます。
しかし一方で、副交感神経の伝令もブロックするということに。
薬がほかの部分に付いたり、そうでなくても皮膚が荒れた脇から全身に回ると副交感神経がブロックされてしまいます(抗コリン作用)。そうなると台頭するのは交感神経。
口が渇く、おしっこが出にくくなるといった「ハラハラすると身体に起こること」が起こります。また、目にも注意。
眼科で「瞳を開いて目がしばらく見えなくなる検査」をしたことがある人もいると思いますが、それが同様に起こってしまう「散瞳」の原因に。
特に、薬のついた手で目をこすると危ないです。「霧視」といって霧の中にいるような見え方になることも。
特に、もともとその症状がある前立腺肥大症や閉塞隅角緑内障の人は、これにかかわらず「抗コリンの作用がある薬」は使ってはいけないと言われることが多いです。
注射(ボトックス)や手術の場合
副作用、というよりはそれぞれ身体に注射をする・切るといったことをするので、それなりの身体の反応が起こり得ります。
注射は痛みや腫れ、内出血。手術は傷が小さいながらも残ったり、傷口からばい菌が入って感染症を起こしたり傷口が開いて出血したり。
また、ボトックスの場合、何度も打つと身体がボツリヌス毒素に負けじと免疫を作ってしまい、効きにくくなることもあります。
脇汗(腋窩多汗症)の自宅で使える治療法やグッズの効果的な使い方
アセチルコリンや交感神経はどうしようもないですが、汗の穴への対処はドラッグストアでなんとかすることも。
制汗剤、特にクロルヒドロキシアルミニウムが入ったものは医師が処方する塩化アルミニウムほどでなくてもある程度の効果が期待できます。
焼きミョウバンも効果的。スプレーやロールタイプ、クリームなどさまざまな商品があります。
気軽にできますので、試してみてはいかがでしょう。
まとめ
- 脇汗は原発性と続発性、またはエクリン腺由来とアポクリン腺由来に分かれる。
- 脇汗で精神的に追い詰められることも問題。精神科にも相談を。
- 診断も重症度もそれぞれチェックリストで判断できます。
- 治療は脇汗を出す交感神経の邪魔をすることと、汗の穴を塞ぐこと。後者は自分でもできるかも。
- 脇汗だけを止めると身体のほかの部分から汗が出ることも。
- 脇以外の交感神経伝令役「アセチルコリン」をブロックすると、副交感神経もブロックされる。元々そういう問題があった人は使ってはいけない。