ゼップバウンドの治験データ解説|日本国内の臨床試験結果と有効性

ゼップバウンドの治験データ解説|日本国内の臨床試験結果と有効性

ゼップバウンド(一般名チルゼパチド)は、GIPとGLP-1という2つのホルモン受容体に同時に作用する肥満症治療薬です。2024年12月に日本で製造販売が承認されました。

日本人225名を対象とした国内第III相臨床試験(SURMOUNT-J)では、72週間の投与で最大22.7%の体重減少が確認されています。従来の治療薬を上回る成績が、複数の大規模治験で繰り返し報告されました。

この記事では、国内外の治験データをもとに、ゼップバウンドの有効性と安全性を丁寧に解説していきます。肥満治療の選択肢として検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。

目次 Outline

ゼップバウンドの治験(臨床試験)で何が調べられたのか

ゼップバウンドの有効性と安全性は、「SURMOUNT」と名付けられた複数の大規模臨床試験で検証されました。日本人を対象にした試験も含まれており、信頼性の高いエビデンスが蓄積されています。

チルゼパチドはGIPとGLP-1の二重アプローチで効果を発揮する

ゼップバウンドの有効成分であるチルゼパチドは、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)という2つの消化管ホルモンの受容体に同時に働きかけます。

GLP-1は主に脳の食欲中枢に作用し、食欲を直接抑えるとともに胃の動きをゆるやかにして満腹感を持続させます。一方のGIPは、脂肪組織でのエネルギー代謝を改善し、脂肪燃焼を後押しするとされています。

この2つの経路を同時に活性化するのがゼップバウンドの特徴であり、従来のGLP-1受容体作動薬(ウゴービなど)にはなかった新しい治療アプローチといえるでしょう。

海外SUMOUNTシリーズ全体の治験設計を押さえよう

ゼップバウンドの効果を評価するために、開発元のイーライリリー社は「SURMOUNT」と呼ばれる一連の第III相臨床試験を世界各地で実施しました。それぞれの試験は対象者や目的が異なります。

SURMOUNT-1は2型糖尿病のない肥満患者を対象にした基本となる試験で、2,539名が参加しています。SURMOUNT-2は2型糖尿病を合併した肥満患者が対象でした。

主なSURMOUNT試験の比較

試験名対象者主な結果(72週時)
SURMOUNT-1糖尿病のない肥満患者最大約20.9%の体重減少
SURMOUNT-22型糖尿病を合併する肥満患者最大約14.7%の体重減少
SURMOUNT-J日本人の肥満症患者最大約22.7%の体重減少
SURMOUNT-5糖尿病のない肥満患者ウゴービとの直接比較で優位

日本国内でも独自の臨床試験「SURMOUNT-J」が実施された

海外の試験だけでは、日本人の体質や生活習慣に合った結果が得られるか分かりません。そこでイーライリリー社は、日本人のみを対象としたSURMOUNT-J試験を国内で行いました。

この試験には、BMI27以上で肥満関連の健康障害を2つ以上もつ方、またはBMI35以上で1つ以上の健康障害がある方が参加しています。2型糖尿病の方は除外されました。

SURMOUNT-J試験の結果が日本での製造販売承認の根拠となっており、日本人に対する有効性と安全性を裏付ける重要なデータです。

SURMOUNT-1試験が証明したチルゼパチドの減量効果は圧倒的だった

ゼップバウンドのグローバルな臨床開発の出発点であるSURMOUNT-1試験は、2型糖尿病のない成人肥満患者を対象に実施され、72週間で平均15~20%の体重減少を実現しました。

2型糖尿病のない肥満患者2,539名が参加した大規模試験

SURMOUNT-1試験は、BMI30以上、またはBMI27以上で体重に関連する合併症(高血圧や脂質異常症など)を有する成人を対象とした国際共同第III相試験です。参加者は2,539名にのぼります。

参加者は4つのグループ(チルゼパチド5mg、10mg、15mg、プラセボ)に無作為に割り付けられ、72週間にわたって週1回の皮下注射を受けました。全員が食事療法と運動療法を並行しています。

72週間で最大約20%の体重減少を達成した

試験の主要評価項目である72週時点の体重変化率は、プラセボ群の-3.1%に対して、チルゼパチド15mg群で-20.9%という結果でした。10mg群は-19.5%、5mg群でも-15.0%と、いずれもプラセボを大きく上回っています。

仮に体重100kgの方が15mg群に入った場合、約1年半で約21kgの減量が期待できる計算です。この数値は、従来の肥満治療薬では到達が困難だった領域でしょう。

従来の肥満治療薬を大きく上回る成績を記録した

SURMOUNT-1試験以前、薬物治療による体重減少は5~10%程度が一般的でした。20%を超える減量成績は、これまで外科手術(胃バイパスなど)でしか達成できなかった水準に匹敵します。

さらに、15mg群では参加者の約36%が体重25%以上の減少に成功しています。5%以上の減量を達成した割合は15mg群で91%にのぼり、ほとんどの方が臨床的に意味のある減量に到達したといえます。

SURMOUNT-1試験の用量別体重減少率

投与群体重変化率(72週時)5%以上減量の達成率
プラセボ群-3.1%35%
5mg群-15.0%85%
10mg群-19.5%89%
15mg群-20.9%91%

日本人を対象にしたSURMOUNT-J試験が示した確かなエビデンス

日本人の肥満症患者225名を対象としたSURMOUNT-J試験では、72週間の投与で最大22.7%という海外試験と同等以上の体重減少が確認されました。日本人の体質でもゼップバウンドが十分に効果を発揮することが、科学的に裏付けられています。

日本人225名で行われた第III相試験の概要

SURMOUNT-J試験は、日本肥満学会の薬物治療基準を満たす成人(2型糖尿病を除く)を対象にした多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照の第III相試験です。

参加者225名は3つのグループ(チルゼパチド10mg、15mg、プラセボ)に分けられ、72週間にわたって週1回の皮下注射と生活習慣の改善を並行して行いました。平均年齢は50.8歳で、男性が59%、女性が41%を占めています。

15mg群では体重が平均22.7%も減少した

試験の結果、プラセボ群の体重変化率が-1.7%だったのに対し、チルゼパチド10mg群は-17.8%、15mg群は-22.7%と、いずれもプラセボとの間に統計学的な有意差が認められました。

特に注目すべきは、15mg群では参加者の96%が体重5%以上の減量を達成し、約63%が20%以上の減量に成功した点です。プラセボ群で20%以上減量できたのは2.2%にすぎませんでした。

SURMOUNT-J試験の結果

評価項目10mg群15mg群
体重変化率(72週時)-17.8%-22.7%
5%以上減量の達成率94%96%
20%以上減量の達成率約40%約63%

日本人特有の体質でも海外試験と同等以上の効果が出た

SURMOUNT-J試験の結果は、海外のSURMOUNT-1試験(最大-20.9%)と比較しても遜色がなく、15mg群の-22.7%はむしろ上回る水準でした。欧米人とは体格や食生活が異なる日本人でも、ゼップバウンドが十分に効くという裏付けになっています。

加えて、体重減少に伴って血圧や脂質、腹囲なども改善し、内臓脂肪の減少を含む体組成の好転が報告されています。減量だけでなく、肥満に伴う合併症の改善にも寄与する可能性があるでしょう。

ゼップバウンドとウゴービを直接比較したSURMOUNT-5試験の結果

GLP-1受容体作動薬のウゴービ(セマグルチド)とゼップバウンドを直接比較したSURMOUNT-5試験では、72週時点でゼップバウンドがより大きな体重減少効果を示しました。2つの肥満治療薬の違いを把握する上で、見逃せない試験データです。

世界初の「直接比較」試験で明らかになった差

SURMOUNT-5試験は、2型糖尿病のない肥満患者751名を対象に行われた第IIIb相の非盲検比較試験です。参加者はチルゼパチド(10mgまたは15mg)またはセマグルチド(1.7mgまたは2.4mg)のいずれかに1対1で割り付けられました。

両剤ともに、各患者が許容できる最大用量で72週間投与する設計であり、条件をそろえた上での直接比較が実現しています。

減量率20.2%対13.7%——数字が物語る優位性

主要評価項目である72週時点の体重変化率は、チルゼパチド群が-20.2%、セマグルチド群が-13.7%でした。その差は約6.5ポイントに達し、統計学的にも有意な差と認められています。

体重15%以上の減量を達成した割合はチルゼパチド群で約62%、セマグルチド群で約37%と、到達率にも大きな開きがありました。

腹囲やBMI改善にも有意差が認められた

体重だけでなく、腹囲の減少幅もチルゼパチド群のほうが大きく、統計学的有意差が認められています。腹囲の変化は内臓脂肪の減少と関連が深いため、心血管リスクの低減にもつながる可能性があるでしょう。

血圧や血糖値、脂質などの心血管代謝リスク因子も両群で改善しましたが、チルゼパチド群ではより大きな改善幅が報告されています。

SURMOUNT-5試験で確認された主なポイント

  • チルゼパチドの72週時体重減少率は-20.2%で、セマグルチドの-13.7%を有意に上回った
  • 25%以上の減量を達成した割合はチルゼパチド群が約2倍多かった
  • 腹囲の減少幅もチルゼパチド群で有意に大きく、内臓脂肪への効果が示唆された
  • 安全性プロファイルは両剤とも同様で、消化器系の副作用が中心だった

ゼップバウンドの副作用と安全性を治験データから確認する

どれほど減量効果が高くても、安全性に問題があれば安心して使えません。ゼップバウンドの副作用は消化器症状が中心であり、大部分が軽度から中等度にとどまることが臨床試験で確認されています。

消化器症状が中心で多くは軽度から中等度

SURMOUNT試験シリーズを通じて、チルゼパチド群で報告が多かった副作用は、悪心(吐き気)、嘔吐、下痢、便秘、消化不良などの消化器症状でした。これらはGLP-1受容体作動薬に共通して見られるもので、投与開始直後や増量時に出やすい傾向があります。

多くの場合は一時的で、投与を続けるうちに軽減していきます。日本人を対象としたSURMOUNT-J試験でも同様の傾向が確認されており、日本人だからといって副作用の傾向が大きく異なるわけではありません。

重篤な有害事象の発生率は低い

SURMOUNT-J試験では、チルゼパチド10mg群の84%、15mg群の86%に何らかの有害事象が報告されましたが、そのほとんどは軽度か中等度でした。プラセボ群でも69%に有害事象が見られており、治験参加者全体で何らかの症状が出るのは珍しくありません。

SURMOUNT-J試験で報告された主な副作用

副作用10mg群15mg群
悪心(吐き気)約20~30%約25~35%
下痢約15~20%約15~25%
便秘約10~15%約10~20%
食欲減退約5~10%約10~15%

投与を中止するケースは少数にとどまった

SURMOUNT-J試験で副作用を理由に投与を中止した参加者は、プラセボ群で3名(4%)、10mg群で1名(1%)、15mg群では0名でした。副作用が原因で治療を断念するケースは非常に少ないといえます。

試験全体の完遂率(治療を最後まで続けた割合)は85%と高く、消化器症状が出ても多くの方が治療を継続できていることが分かります。担当医と相談しながら投与量を調整することで、副作用に対処しやすくなるでしょう。

治験結果から見えるゼップバウンドの投与対象と注意点

ゼップバウンドはすべての方に処方されるわけではなく、一定のBMI基準や肥満関連疾患の有無など、投与対象が明確に定められています。治験データから見える対象者像と注意点を整理します。

BMI27以上かつ肥満関連疾患がある方が対象になる

日本でのゼップバウンドの投与対象は、食事療法や運動療法を行っても十分な効果が得られない20歳以上の肥満症患者です。具体的には、BMI35以上の高度肥満症の方、またはBMI27以上で肥満に関連する健康障害を2つ以上お持ちの方が該当します。

肥満関連の健康障害には、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病(耐糖能異常を含む)、睡眠時無呼吸症候群などが含まれます。単に「体重を減らしたい」という理由だけでは、投与の対象にならない点を覚えておきましょう。

食事療法・運動療法との併用が前提になっている

ゼップバウンドの治験は、すべて食事療法と運動療法を並行して行う設計で実施されました。薬だけに頼るのではなく、生活習慣の改善と組み合わせることで初めて十分な効果が期待できます。

SURMOUNT-3試験では、まず12週間の集中的な生活習慣介入(食事制限・運動・行動カウンセリング)を行い、5%以上の減量に成功した方に対してチルゼパチドを投与しています。その結果、さらに平均18.4%の追加減量が達成されました。

投与中止後の体重リバウンドにも備えが必要

SURMOUNT-4試験の結果から、チルゼパチドの投与を中止すると、1年間で失った体重の約半分が戻ってしまうことが示されています。肥満症は慢性疾患であり、高血圧や糖尿病と同様に長期的な管理が求められます。

投与を継続したグループでは36週目以降もさらに5.5%の追加減量が認められており、中止したグループとの差は歴然でした。治療をいつまで続けるかは担当医とよく相談することが大切です。

投与対象と注意点の整理

  • BMI27以上かつ肥満関連健康障害2つ以上、またはBMI35以上が投与の基準
  • 食事・運動療法を並行し、薬だけに頼らない姿勢が大切
  • 投与を中止すると体重が戻りやすいため、長期的な管理計画が求められる
  • 処方は専門的な基準を満たした医療機関に限られる

治験データから分かるゼップバウンドの長期減量維持効果

肥満治療では「痩せた後に維持できるか」が最大の課題です。SURMOUNT-4試験のデータは、チルゼパチドを投与し続ければ減量効果が持続し、さらなる体重減少も見込めることを明確に示しました。

SURMOUNT-4試験では投与継続で減量効果が持続した

SURMOUNT-4試験は670名の肥満患者を対象に、まず36週間のオープンラベル期間でチルゼパチドの最大耐容量(10mgまたは15mg)を投与した後、52週間の二重盲検期間に入る設計でした。

オープンラベル期間の36週目までに参加者の体重は平均20.9%減少しました。その後、投与を継続したグループではさらに5.5%の追加減量が認められた一方、プラセボに切り替えたグループは14%のリバウンドが生じました。

SURMOUNT-4試験における体重変化の推移

グループ36週目までの変化88週目までの変化
チルゼパチド継続群-20.9%-25.3%(さらに減少)
プラセボ切替群-20.9%-9.9%(リバウンド)

投与を中止すると体重が戻りやすい傾向がある

プラセボに切り替えたグループでは、52週間で失った体重の多くが戻り、心血管代謝リスク因子の改善も後退する傾向が見られました。これは、肥満が一時的な状態ではなく、慢性的な代謝異常であることを裏付けています。

ただし、プラセボに切り替えた後の88週目の時点でも、試験開始時と比べると体重は-9.9%を維持していました。36週間の薬物治療が完全に無駄になるわけではないものの、継続投与に比べると効果は大きく減退します。

肥満症は長期管理が前提の慢性疾患である

SURMOUNT-4試験の結果は、肥満症が高血圧や糖尿病と同じく、長期にわたる治療管理が求められる慢性疾患であることを改めて示しています。「目標体重に達したから終わり」ではなく、維持期にも治療を続ける視点が大切です。

治験データを総合すると、ゼップバウンドは食事・運動療法と組み合わせて長期的に使用することで、大幅な減量とその維持を両立できる可能性を備えた治療薬だといえるでしょう。担当医と二人三脚で治療計画を立てていくことをおすすめします。

よくある質問

ゼップバウンド(チルゼパチド)の国内臨床試験ではどのくらい体重が減りましたか?

日本人225名を対象としたSURMOUNT-J試験では、72週間(約1年半)の投与で15mg群が平均-22.7%、10mg群が平均-17.8%の体重減少を達成しています。プラセボ群は-1.7%でしたので、薬による効果が非常に大きいことが分かります。

15mg群では参加者の96%が5%以上の減量に成功し、約63%が20%以上の減量を達成しました。仮に体重80kgの方であれば、約18kg前後の減量が見込める計算です。

ゼップバウンドの治験で報告された主な副作用にはどのようなものがありますか?

治験で報告された副作用の多くは消化器症状で、悪心(吐き気)、下痢、便秘、嘔吐、消化不良などが中心です。投与開始直後や増量時に出やすく、多くは軽度から中等度にとどまります。

日本人を対象としたSURMOUNT-J試験でも同様の傾向でした。副作用が原因で投与を中止した方は15mg群で0名と非常に少なく、医師と相談しながら用量を調整することで多くの方が治療を続けられています。

ゼップバウンドはウゴービと比べて減量効果に違いがありますか?

SURMOUNT-5試験において、ゼップバウンドとウゴービが初めて直接比較されました。72週時点の体重減少率は、ゼップバウンド群が-20.2%、ウゴービ群が-13.7%であり、約6.5ポイントの差が認められています。

この差は統計学的にも有意であり、腹囲の減少幅でもゼップバウンドが上回りました。ただし、どちらの薬が合うかは個人の状態によって異なるため、担当医との相談が大切です。

ゼップバウンドの投与を中止すると体重は元に戻ってしまいますか?

SURMOUNT-4試験の結果によると、投与を中止したグループでは52週間で体重が約14%リバウンドしました。一方で、投与を継続したグループではさらに5.5%の追加減量が見られています。

肥満症は慢性疾患であるため、治療を中止すれば食欲が元の状態に戻りやすく、体重も増加する傾向があります。減量を維持するためには、食事・運動の継続と合わせて長期的な治療計画を立てることが重要です。

ゼップバウンドの治験には日本人も参加していたのですか?

はい、日本人のみを対象としたSURMOUNT-J試験が国内で実施されました。この試験には225名の日本人肥満症患者が参加し、チルゼパチド10mg、15mg、プラセボの3群で72週間の効果と安全性が評価されています。

さらに、海外で実施されたSURMOUNT-1試験やSURMOUNT-2試験にも一部の日本人が含まれていました。日本人に対する有効性と安全性が複数の試験で裏付けられたことが、国内承認の根拠となっています。

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この記事を書いた人 Wrote this article

大木 沙織 大木皮ふ科クリニック 副院長

皮膚科医/内科専門医/公認心理師 略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。 所属:日本内科学会