老いも若きも気になる頭の毛。守れるものなら守りたい。しかし、副作用などのデメリットからも身を守りたい。
どんな問題があるか把握することで、避けられるものを少しでも避けて、少しでも人生と髪の毛を豊かにしましょう。
この記事のポイント
・どんな治療にもデメリットはある。
・効果が出るまで長いし、効果の程度も不明
・副作用は全員に起こるわけではない。
・治療をやめたら副作用もなくなる。
・メリットとデメリットを比べてどちらを取るか考えよう。
・デメリットの相談はクリニックで。
この記事を書いた医師
名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。
本文中の上付き数字1)2)3)は論文引用箇所で文末に論文名を記載しています
AGA治療のデメリット|治療は良いことだけではない
副作用、それはどの薬にも起こりうる事
これはどのような治療にも言えることですが、薬は身体にいろいろな影響を。期待していた効果を作用と呼ぶのに対し、そうではない作用を「副作用」と呼びます。
AGA治療に使う薬はそもそもほかの目的で作った薬の副作用として脱毛が良くなるというものでした。逆に言うと、毛にいい影響があるという作用を期待する以上、もともとの狙いも副作用となるのです。
成り立ちと副作用は後にお話します。
初期脱毛、新しい自分を迎えるための犠牲
脱毛の治療をしたはずなのに、かえって毛が抜ける、なんて話をしたら、皆さんビックリすると思います。名前も脱毛なんて言って怖いですよね。
全員に起こるわけではないですが、ミノキシジルを多めに飲むと初期脱毛出る方がそこそこにいます。
この時抜けるのは、細くて弱々しい産毛のような毛。これから排除しようとしてる、困ったさん。たださえ毛穴から出る毛の量が限られている中、弱い毛は邪魔者。
あまりにも邪魔な場合は抜けることで新しい毛の準備をする、というわけです。
逆に初期脱毛がないと毛が生まれ変わらないのか、という心配は御無用。あくまで、起こる人は起こるというもの。とはいえ抜ける人は抜けるので、始めるタイミングは見極めたほうがいいかもしれません。
脱毛自体は1ヶ月以内に収まる方もいれば、3-4ヶ月続く方も。特に今の毛が弱々しい方は覚悟してください。
治療費用と通院にかかるコスト
どの治療にも言えることですが、治療をするということは通院費と通院のための手間がかかります。近くにAGA治療を行っているクリニックがあればいいですが、大体の場合通うことに。
夏は暑く、冬は寒い。仕事帰りで疲れてるときもあれば、せっかくの休みを費やすこともある。しかもAGA治療の場合は保険が使えないので、普通の通院より財布を痛めやすいもの。
普通の通院でも大変なのに、ダブルパンチ。将来の自分への投資はなかなか大変なものです1)。
効果が見える治療期間は少なくとも数ヶ月
治療を始めたらすぐワッサーと髪の毛が生えてくる!そうしたら、治療を続けるモチベーションに繋がりますよね。でも残念なことに、そうはなりません。
見た目が変わらないどころかむしろお話したとおり、逆に毛が抜けることすらある、モチベーションだだ下がりな経過。見た目で効果を実感できるには4-6ヶ月、1年かかる人も。その間薬を続ける根気が必要です。
効果が出る・満足できるかは個人差あり
今までの関門を突破して、ようやく効果が出始めました。めでたし、とはならないのがまた問題です。
効果は出る・・・・・・!出るが・・・・・・今回 まだその時と効果の指定まではしていない、そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい。
つまり・・・・人によって満足度は10%20%ということもあり得るだろう・・・・・・・・・・ということ・・・・!
というわけで、満足できるかどうかは完全に人それぞれです。効果と言っても人さまざまで、毛が元に戻ってよかったー、という人もいれば、何も変わらんやんけ!という人も。
ここで諸君らも思い出していただきたい。AGA治療薬(フィナステリド、デュタステリド)の最低限の効果は「抜け毛の進行を食い止める」ということ。
それ以上に生えてくる人もいれば、ほんとならすごい勢いで抜けていっていたであろう人が抜け止まる程度になる人もいます。
特につむじは復活しやすく、額は進行を食い止めるので精一杯なことが多く、人それぞれ感じられる効果の差は激しいです。
飲まなかった時の自分と比べると効果がよく分かるかもしれませんが、あえて飲むのをやめるのも怖いですよね。
薬の効果はその時のみ、治療をやめると脱毛も再び
もうAGA治療に、100万円も課金した!もういいだろう!という方、申し訳ないことにいくら課金したところで薬の効果は一時的、治療をやめたらまた抜け毛は進んでしまいます。儚いですね。
ではいつまで続けるのか。副作用やお財布が問題にならない限り、髪の毛に諦めがつくまで飲む必要があります2)。髪の毛という何事にも代えがたい喜びのための無限課金、これもデメリットと言えますね。
AGA体質は完治しない、遺伝子は変えられない
はい、ハゲ家系と言われるように、AGA体質は遺伝します。ご先祖様を恨んじゃいけません、強靭な男性ホルモンのお陰で今の貴方があるのです。
これがAGA家系じゃなければ、とっくに家が途絶えてたかもしれません。というわけで、ご立派なご先祖の遺伝子の継承者である皆さんはご立派なAGAと一生付き合うことになります。
AGAの薬をやめると再発する、と同じ話ですね。
治療法別AGA治療の副作用
AGA治療の薬はいずれも、本来は別の目的で作られたもので、そのうちデュタステリドは「アボルブ」という名前で前立腺肥大症の薬として今も使われてます。
脱毛改善はあくまで「副作用」だったということで、逆に言うと脱毛改善が「期待してる作用」である以上ほかの作用は全部副作用となってしまいます。
ここで、もともと期待していた作用と誰からも期待されてない副作用を並べます。
外用薬の副作用
・ミノキシジル外用薬
もともとは血圧を下げる飲み薬として開発されましたが、心臓や血管への副作用が強すぎて使用は断念されました。
そのときの治験で「毛深くなる」という副作用が相次いで報告されたため、育毛剤としての研究が進んだのです。飲み薬だと問題となった副作用があるため、塗り薬が開発されました。
これは塗り薬全般的に言える副作用ですが、かぶれ(接触性皮膚炎)が問題になります。
こればかりは相性なのでどうしようもないですが、頭の皮膚がもともと弱っている方が薬を塗ると悪化する可能性が高くなります。
その上、髪の毛が弱っている人の中には頭皮の荒れが原因なこともあり(AGAではありません)そこに薬を塗るとかぶれが起こりやすくも3)。
仮にかぶれた場合は皮膚科を受診してステロイドを塗れば治りますが、その後再びミノキシジルを塗るかは医者と相談してください。
内服薬の副作用
・フィナステリドとデュタステリド
もともとは前立腺肥大症という、おしっこを出す管の途中で管を取り囲む「前立腺」が大きくなってしまい、おしっこが出にくくなってしまう病気を治す薬でした。
男性ホルモンの一つ「ジヒドロテストステロン」が前立腺を大きくしてしまうので、それが身体からできるのを防ぐ薬です。
このジヒドロテストステロンが額やつむじの脱毛(M字ハゲ、O字ハゲ)の原因にもなります。こういうわけでAGAを防ぐ薬にはなるのですが、ジヒドロテストステロンはほかの役割もあります。
それが精巣…いわゆる「男性機能」に関することです。
これも防いでしまうことで、性欲(リビドー)がわかない、勃起障害が起こる、精液が減るといった問題が出ます4-6)。特に妊活をするときは困るかもしれません。もし困るときは薬をやめたら戻ります。
もう一つ大変な副作用が、うつ状態になりやすいこと7)。
もしも気分に変化がある、例えば趣味を楽しめなくなったり落ち込むようになる、朝早く起きて眠れないということがあったらすぐかかりつけのAGAクリニックに相談してください。
・ミノキシジル内服
もともとの飲み薬のほうが効果が高いので、未承認ながらも飲み薬を使う人が多いことも事実です。
しかし副作用が強すぎて実用化を断念した薬、あえて飲むということはそれだけ副作用を覚悟しなければなりません。
ミノキシジルは血圧を下げるために開発された薬ですが、その原理は「血管を広げる」というもの。ストローをイメージしてください。
カクテルについてるような細いストローだとすごい勢いで吸うことができますが、タピオカミルクティー用みたいな太いストローだとそれなりに吸う力が必要です。
今どきタピオカドリンクなんて飲まないというあなたはホースをイメージしてください。ホースの先をつまむとすごい勢いで水が出ますよね?手を離すと元の勢いに戻ります。
つまり、管の幅が広いと流れる水の勢いが落ちる(狭いと勢いが増す)のです。
体の中を巡る血管で同じことが起こるとどうなるでしょうか。文字通り「血の巡りが悪く」なります。一番血が巡らなくて困るのは心臓。
血管に血を巡らせるポンプである心臓は、広がったりしぼんだりということを繰り返してドクドクと身体中に血を送ります。しかし、いくらドクドクしてもドクドクしても、血はうまく流れません。
タピオカミルクティーのストローとカクテルのストローの吸いやすさの違いと同じです。いや、逆ですが。
そういうわけで心臓が疲れて動悸や息切れ、胸痛の原因になったり、血がうまく巡らないせいで浮腫みや立ち眩み、頭痛が出たりします8-9)。
専門用語で言うと、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)や心不全という状態になります。怖いですよね。そう、怖いから販売中止になったのです。
とはいえ、極々少量(0.25mg)程度なら副作用は起こりにくいと言われています。
もう一つ、これは副作用というより効果が強すぎての困ったことですが、頭の毛以外の部分まで毛が濃くなります(多毛)。
もともとそのような副作用があったからこそ薄毛治療に期待されていたものの、期待しない部分に生えてしまうのは副作用と言えるでしょう。
これらの副作用も薬を飲むのをやめると良くなることがほとんどです。
AGA治療のデメリットを抑えたクリニック選びのポイント
それでもメリットがあるAGA治療、やるならクリニックで
こんなにデメリットを並べられちゃ嫌な感じしますよね。怖いという方も多い中10)それでも、治療しないことのデメリット「AGA」に悩んだからこそこのページに辿り着いたのではないでしょうか。
逆に言うとデメリットはこれくらい、メリットは無限大。そして治療するならクリニックで!
たまに同じ薬ならいいやとどこぞの怪しげなところから仕入れる方もいますが、何が入ったものかわかりませんし、これらのデメリットを把握して対処することもできません。
AGA治療をしているクリニックはたくさんあります、どこかしらで相談することをおすすめします。
まとめ
どんな治療にもデメリットはつきもの。AGA治療のデメリットは副作用だけでなく続けることの大切さと難しさも問題になります。
自分なりに生活スタイルや予算、そしてライフプランを考えたうえで医師としっかり相談し、一番良い治療法を考えましょう。
参考文献
1)Nestor, M. S., Ablon, G., Gade, A., Han, H., & Fischer, D. L. (2021). Treatment options for androgenetic alopecia: Efficacy, side effects, compliance, financial considerations, and ethics. Journal of cosmetic dermatology, 20(12), 3759-3781.
2)Motofei, I. G., Rowland, D. L., Baconi, D. L., Tampa, M., Sârbu, M. I., Păunică, S., … & Georgescu, S. R. (2018). Androgenetic alopecia; drug safety and therapeutic strategies. Expert opinion on drug safety, 17(4), 407-412.
3)Rossi, A., Cantisani, C., Melis, L., Iorio, A., Scali, E., & Calvieri, S. (2012). Minoxidil use in dermatology, side effects and recent patents. Recent patents on inflammation & allergy drug discovery, 6(2), 130-136.
4)Fertig, R. M., Gamret, A. C., Darwin, E., & Gaudi, S. (2017). Sexual side effects of 5-α-reductase inhibitors finasteride and dutasteride: A comprehensive review. Dermatology Online Journal, 23(11).
5)Diviccaro, S., Melcangi, R. C., & Giatti, S. (2020). Post-finasteride syndrome: an emerging clinical problem. Neurobiology of stress, 12, 100209.
6)Coskuner, E. R., Ozkan, B., & Culha, M. G. (2019). Sexual problems of men with androgenic alopecia treated with 5-alpha reductase inhibitors. Sexual medicine reviews, 7(2), 277-282.
7)Traish, Abdulmaged M., et al. “Adverse side effects of 5α-reductase inhibitors therapy: persistent diminished libido and erectile dysfunction and depression in a subset of patients.” The journal of sexual medicine 8.3 (2011): 872-884.
8)Beach, R. A. (2018). Case series of oral minoxidil for androgenetic and traction alopecia: Tolerability & the five C’s of oral therapy. Dermatologic therapy, 31(6).
9)Panchaprateep, R., & Lueangarun, S. (2020). Efficacy and safety of oral minoxidil 5 mg once daily in the treatment of male patients with androgenetic alopecia: an open-label and global photographic assessment. Dermatology and therapy, 10, 1345-1357.
10)Chandrashekar, B. S., Nandhini, T., Vasanth, V., Sriram, R., & Navale, S. (2015). Topical minoxidil fortified with finasteride: An account of maintenance of hair density after replacing oral finasteride. Indian dermatology online journal, 6(1), 17.
Q&A(質疑応答集)
- QAGAの治療にはどのようなデメリットがありますか?
- QAGAの薬を中止すると脱毛はどうなりますか?
- QAGAの治療は保険が適用されますか?
- QAGAの治療薬を使うとすぐに効果が現れますか?
- QAGAの治療を受けたら必ず脱毛が止まりますか?
- QAGAの治療薬を使うと副作用が出ますか?
- QAGA治療の薬にはどんな副作用がありますか?
- QAGAの治療薬を使うことは難しいですか?
- QAGAの薬を手に入れるのは大変ですか?