男性型脱毛症(AGA)治療の話になると必ず出てくる薬、フィナステリド(プロペシア)とデュタステリド(ザガーロ)。
ほかにも脱毛症の治療はある中で、どうしてこの二つだけは特別扱いなのでしょうか。
答えは男性型脱毛症が男性ホルモンによる現象だから。
放置するとどんどん進行して治療が難しくなるAGA。その進行を唯一抑えられるフィナステリドとデュタステリドの話を、影も光もあわせて公開いたします。
この記事を書いた医師
名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。
本文中の上付き数字1)2)3)は論文引用箇所で文末に論文名を記載しています
AGA治療薬誕生秘話~もともとは前立腺肥大症の薬だった!~
プロペシア(成分名 フィナステリド)とは、世界的な製薬会社ひとつ「メルク&カンパニー」が開発し、日本ではその日本法人であるMSDで販売が開始されました(現在はオルガノン社が販売を行っています)。
薬の特許が切れているため、ジェネリック(後発品、同じ成分の薬を別の会社や別の作り方で作ったもの)も販売されています。
成分名は「フィナステリド」ですので、だいたいのジェネリックは「フィナステリド」という名前で売られているのです。
海外では「フィンペシア」という名前で売られているので、個人輸入代行店(オオサカ堂やアイドラッグなど)で見かけることもあるかもしれません。
前立腺肥大症の治療で男性型脱毛症が治った!
フィナステリドはもともと、前立腺肥大症(陰茎の根元にある組織が肥大してしまい、尿が出にくくなる病気)の治療薬として開発された、「プロスカー」という薬でした。
ところが、その薬を飲んだ患者さんの髪の毛がどんどん太くなったのです。
開発元のメルク社が研究した結果、男性ホルモンのひとつ、ジヒドロテストステロン(DHT)がどちらにも影響していることがわかりました。
前立腺肥大症治療のためにジヒドロテストステロンを抑える薬を開発したわけですが、それがAGAの治療にも繋がったのです。
さらに研究を進め、FDA(アメリカ食品医薬品局、日本でいう厚生労働省のような組織)によって1997年に正式にAGAの脱毛予防薬として認可され、「プロペシア」という名前で商品化に至りました。
更に研究は続く~デュタステリドの誕生~
一方のデュタステリドもやはり前立腺肥大症の薬として、グラクソ・スミスクライン(GSK)が開発した薬でした。
フィナステリドよりも強力にジヒドロテストステロンの発生を防ぐことはできないか?ということから開発されたデュタステリド。
こちらも研究が功を奏し、フィナステリド以上にジヒドロテストステロンを抑えることに成功しました。こちらは「アボルブ」という名前で現在も日本において前立腺肥大症の治療薬として使用されています。
こちらも特許が切れ、「デュタステリド」という名前でジェネリックが各社から。
なぜ男性ホルモンが影響を及ぼすのか~ジヒドロテストステロンとは~
前立腺肥大症も男性型脱毛症も、男性ホルモンのひとつ「ジヒドロテストステロン」(DHT)によって引き起こされます。
男性ホルモンの代表格である「テストステロン」が5αリダクターゼという酵素(何かとくっついて別の何かに変える物質)とくっついてジヒドロテストステロンに。
これが男性型脱毛症と前立腺肥大症を引き起こすのです。
よって、テストステロンがジヒドロテストステロンにならないように、5αリダクターゼ酵素を阻害する薬が開発されました。これがフィナステリド、プロペシアとデュタステリド、ザガーロ(アボルブ)です。
AGAを止める唯一の薬、フィナステリドとデュタステリド 全ての治療はここから。
未来の毛を守るために
AGAが起こる仕組みの説明を見ると、そもそものAGAの原因である5αリダクターゼ酵素を阻害することが、つまりフィナステリドやデュタステリドを飲むことがいかに大事かがご理解いただけたかと思います。
ほかにも薄毛治療の対策とされていることは数多くありますが、根本的な原因を解決できるのは現在のところこの5αリダクターゼ酵素阻害剤(フィナステリド及びデュタステリド)しかありません。
AGAは放置するとどんどん進行していく問題です。特に額(M字の部分)は現在の医療では進行を食い止められることはできても、一度抜けてしまった毛を生やすことは残念ながらとても厳しいのが現状。
ですので、今の薄毛がどの程度良くなるかの前に、未来の抜け毛を防ぐためにはこれらの薬が必須と考えられます。
もちろん副作用もありますので、万人に勧められるわけではありません。しかし、ジヒドロテストステロン(DHT)、そしてそれを抑えるフィナステリド及びデュタステリドは皆さんの髪の毛のベースを決める唯一の物質となるのです。
AGAが進行すると、普通の方で10万本程度と言われる髪の毛のうち40%程度が抜けてしまいます。残り6割のうち治療に反応して髪の毛が増えるのを感じられるのはその10%程度、つまり6000本程度までに。
ですので、AGAの始まりを感じた段階で速やかに進行をフィナステリドやデュタステリドで抑えることが将来の髪の毛を守ることに繋がります。
そして、抜け毛が減ったり毛が増えてきたとしても、薬はやむを得ない事情がない限り飲み続けていただきたいです。
少しでも興味がわいたら、真っ先に検討
どうしても急かすような表現になってしまいますが、事実なので仕方ありません。
ほかの薄毛治療はあとからでもどうにでもなることが多いのです。
しかし、根本的に進行を食いとめられるのはフィナステリドとデュタステリドしかありません。そして幸いにも、もう一つの治療薬である「ミノキシジル」に比べると、副作用の心配は非常に少ないと考えます。
(もともとが高齢男性で問題になりがちな前立腺肥大症の治療薬なので、高齢者にも使えるように安全性は相当保たれているのです。)
飲んでからやめることも簡単。ここまで熱心にこの文章を読まれていらっしゃる方は、少しでもAGAとその治療に興味があると思います。
もう一歩進んで、医者と相談しませんか?
フィナステリドとデュタステリドの副作用は?
もちろん、どのような薬にも副作用はつきものです。
- 男性機能障害
- 肝機能障害
- 抑うつ、自殺
男性機能障害
一部とはいえ男性ホルモンを抑える薬ですので、副作用も男性機能関係となります。
勃起不全症(ED)、射精障害、性欲(リビドー)の減退、精液の減少、精子の奇形などが出ることが。報告として1%未満(ごく稀)とされていますが、特に妊活中の方は気を付けたほうがいいと思われます。
EDに関してはバイアグラ、シアリス、レビトラといった勃起不全治療薬で治療が可能(余談ですが、これらももともとは肺高血圧症という難病を治す薬として開発されたのです)です。
ただし、もう一つのAGAの薬「ミノキシジル」を「飲んでいると」血管が開きすぎて危険なことになるので「併用禁忌」(一緒に使ってはいけない)となっております。
肝機能障害
これはすべての薬に(漢方やサプリすらも)言える話ですが、「身体に何かを効かせる薬的なもの」の後始末は肝臓や腎臓の仕事です。
フィナステリド、デュタステリドは肝臓がメインですので、一定数の方は肝臓に負担がかかってしまう(薬剤性肝炎)こともあります。
早期発見して薬をやめたらほとんどの方が元通りになるので、飲み始めてから数か月後には血液検査で肝臓の値を確認することが大切です。その後も健康診断で確認してくださいね。
抑うつ、自殺
2012年頃から、フィナステリドを飲み始めてからの抑うつや、最悪の場合自殺を選ぶ方が複数人報告されるようになり、製薬会社からの注意喚起につながったという話があります。
2020年にはNguyenらの研究で「45歳以下の脱毛症患者に対してフィナステリドを使うと精神的な問題や自殺傾向が明らかに増える」という論文がJAMA dermatologyという世界的権威の雑誌に載りました。
その研究では、精神面の副作用は(本来のターゲットである前立腺肥大症を持った)高齢者にはありませんでした。一方、精神面の副作用は問題となった2012年以降に顕著になった、ともされています。
参考文献:Nguyen DD, et al. JAMA Dermatol. 2020 Nov 11. [Epub ahead of print]
この副作用については研究途中ですが、男性ホルモンが精神面にも影響を及ぼしていることが原因と考えられるようです。
事実、昨今取り沙汰されている「抑うつなどの男性更年期障害」は男性ホルモンが少なくなることで問題となっていて、男性ホルモンのひとつである「テストステロン」を補充することが治療に繋がっています。
(逆に、高齢者はすでに男性ホルモンが枯渇しているからこの副作用が目立たないのかもしれません…)
精神面でストレスを受けやすいかどうかは、生まれつきの(遺伝的な)問題であったり、育ち方の問題であったりとさまざまな要因が混ざっているのです。
血縁の方に精神疾患を患った方がいる人は同様に精神疾患を患いやすいという報告も多数あります。
公認心理師として申し上げたいのは、「生まれや育ちの問題」で片づけないでほしいけれど、自分に精神的な問題を抱えやすい素質がないかを考えてみてほしいのです。
あなたはストレスを抱えたとき、どのようにしてそれを発散させる(コーピング)ことができますか?悩みを伝え、心の支えになる人(ゲートキーパー)がいますか?
仮に精神を患ったとしても精神科としっかり連携していれば良いのですが、少しでもドキッとした方は精神面のリスク管理ができる医師のもとでAGA治療をすることが望ましいと考えます。
とはいっても副作用は比較的少ない薬です
散々脅してしまいましたが、フィナステリドとデュタステリドは、世の中に数ある薬の中でも副作用は低い類の薬と思われます。
そもそもが身体の弱い高齢者向けの排尿障害を改善する薬ですから、抗がん剤のように過激なことはできません。
少なくとも、もう一つの薬であるミノキシジルの飲み薬(ミノタブ)に比べると非常に安全な薬と言えるでしょう。
まとめ
- AGA治療にフィナステリドやデュタステリドはほぼ必須
- AGAはどんどん進行するもの、早めの治療が未来を救う
- 副作用はいろいろあるけれど、しっかり管理すれば大丈夫
- 少しでも関心があったら相談してみよう