ミノキシジルはもともと血圧に効く薬として開発されました。発毛剤としての効果も、頭の血流を良くすることから生まれたこと。
しかし一方で血流をコントロールするということは、心臓や血管に作用するということで、それによる問題点と注意するべきことを解説いたします。今回は大真面目です。
この記事のポイント
- ミノキシジルは心臓や血管に作用する難しい薬
- 主な副作用は胸痛・動悸・息切れ・不整脈・呼吸不全・目の腫れ・狭心症など循環器の問題
- 外用薬なら15%の高濃度でも頭皮のかぶれ程度
- 飲み合わせていけないのは痛み止め
- 未成年者には注意が必要
この記事を書いた医師
名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。
本文中の上付き数字1)2)3)は論文引用箇所で文末に論文名を記載しています
ミノキシジルは心臓や血管に作用する難しい薬
ミノキシジルはもともと高血圧の治療薬として開発されました。
その作戦は「血管(ホース)を広げて血圧(水圧)を下げる」というもの。
ホースを広げた結果血流が良くなり、血とともに育毛を促す栄養が毛に届くようになったのです。
循環器、それは身体の血の巡りを司る臓器
血液が巡る血管と心臓、それらを合わせて「循環器」と呼びます。
心臓という名のポンプが動くことで、血管という名のホースに血がドクドクと巡るのです。
心臓の左心室から大動脈へ、そしてどんどん細い動脈に流れ、最終的に頭皮を始めとしたゴール地点にある「毛細血管」へと血液は流れます。
さて、血管というものは、ただのホースではありません。
なにせ、心臓は一回の拍動で全身に血液を送る力を持っています。
皆さんは血圧を測ったことがありますか?「上の血圧、下の血圧」の意味とは何でしょうか。
例えば120/80mmHgという血圧があったとします。120(上の血圧)は、心臓が収縮して全身に血液を送っているときの血圧で、80(下の血圧)は、心臓が拡張して送った血液を溜めているときの血圧です。
そして、mmHgとは「Hg、つまり水銀が何ミリメートル吹き上がるか」という意味。今でこそ血圧計は簡単なものになりましたが、昔は水銀の入った棒で実際にどれくらい水銀が吹きあがるかを確認していました。
重たい水銀だとわかりにくいので、水に直してみましょう。水銀は水の13.6倍ギュッとしている(密度)ため、mmHgをmmH2O(H2O、つまり水が何ミリメートル吹き上がるか)にすると13.6倍になります。
先ほどの例で考えると、120×13.6=1632mm、わたしの身長よりも高く吹き上がるわけです。とんでもない圧力ですね。
そんな勢いの血が、一気に動脈というホースに流れ込むのです。よほど丈夫なホースでないと耐えられませんね。
なら、どういうホースがいいでしょうか。がちがちなホース?それでも耐えられない勢いで血が流れてきたら、破裂してしまいますね。
ピンときた方もいますか?動脈硬化によって動脈が破裂する…そう、ホースがガチガチなのは問題設計なのです。
柔よく剛を制す。適度にしなる柔らかいホースのほうが、強い血圧に耐えられるのです。
そんなホースの素材は何でしょうか。ずばり、筋肉です。
細動脈(大動脈の先にある細い動脈)は、平滑筋というその名の通り平たく滑らかな筋肉でできています。
心臓に繋がる大動脈から勢いよく流れてくる血液に対し、伸びたり(拡張)縮んだり(収縮)してその勢いを調整しているのです。
循環器を制する者は髪の毛を制す~ミノキシジルと循環器~
さて、ミノキシジルの話に戻ります。ミノキシジルは、この平滑筋に作用して、血管を拡張させる作用があります。
ホースを摘まんで細くすると水の勢いが強くなる一方で、ホースの幅が広いと水の勢いは弱まりますね。これがミノキシジルを作った研究者の狙いでした。
ただ、普通のホースと違うところは、細動脈の脇にさらに細かい管が付いていて、全身に血をめぐらせているところです。これを毛細血管と言います。
では細血管を拡張させて、血の勢いを抑えるとどうなるでしょうか。脇にある毛細血管に血液が流れていく、ということになります。
血液にはいろいろな成分が含まれていますが、その一つが栄養です。毛細血管に血液が流れていくと、その先にある毛を生む細胞(毛母細胞)に栄養がどんどん配られます。
こうして全身の毛に栄養が届き、毛が太くなるという現象が。
血圧を下げる薬の副作用として現れたこの現象の「多毛症」と呼びます。こうしてミノキシジルを飲むと、髪の毛を含めた全身の毛が太くなり薄毛治療につながるということに。
AGA(男性型脱毛症)は、毛が生えてこないのではなく育たなくなり、毛が細く弱くなっている状態。毛を太らせるということは、AGAにうってつけの薬というわけです。
(ですので正式にいうと、発毛成分ではなく育毛成分ということになります)
毛に血液を送ると、その分よその血液が減る~毛は肥え、心臓は栄養不足に~
ミノキシジルで血圧が下がったり、毛が生える原理はこれで説明がつきました。
ではそのほかの副作用はどのようにして説明できるでしょうか。
胸が痛い、動悸がする、息苦しい、浮腫む…これらは全て、心臓からのSOSです。
何故心臓が悲鳴を上げるのでしょうか。
それは、心臓もまた栄養を必要とする臓器の一つであるからです。
心臓に栄養を送る血管は「冠動脈」。冠のように心臓のまわりにぐるりと巡っています。
ミノキシジルを飲むと血管を広げる効果が全身に広がるため、この冠動脈の血管も拡張。ここでホースの話に戻ります。ホースが広がると、水の勢いが弱くなりますよね。
冠動脈というホースの先にいるのが…そう、心臓です。
わかりやすく言うと、毛に栄養が行き渡ってぶくぶく太らせる一方で、心臓に行く栄養と酸素が減ってしまい、飢餓状態になってしまいます。
息切れ、動悸、不整脈、胸痛、狭心症、浮腫み、体重増加、頭痛…副作用は血管が拡張するから
恐ろしいタイトルですね。
一つ一つ説明いたします。
息切れ
先ほどお話ししたように、心臓に運ばれる酸素の量が落ちると、心臓が息切れを起こしてしまいます。
高山病という言葉を聞いたことがありますか?標高が高いところだと酸素が薄く、慣れないと息切れを起こしてしまいます。ミノキシジルを飲むと、心臓も同じ状態になるということです。
もちろん心臓には全身に血液を流すポンプという重大な仕事がありますので、酸素不足でも働かなくてはいけません。しかし息切れは治まらないため、心臓はぜえぜえと働くのです。
そして心臓に酸素が足りない以上、酸素を送る仕事をしている肺にも負担がかかり、そのため息切れという症状が皆さんにもあらわれます。
動悸、不整脈
胸がどきどきする動悸。実際に心臓の動きがいつもよりも早くなっていることが多いでしょう。また、逆に遅いな、という方もいるでしょう。
心臓には指揮者がいます。その指揮者が1,2,3,4…とリズムを刻むことによって、心臓は整った間隔脈を打つのです。
その指揮がうまくいかないと、不整脈という形で整わない脈の打ち方になってしまいます。早くなったり(頻脈)遅くなったり(徐脈)…
原因はやはり、心臓がぜえぜえと息切れを起こしながら働いているから。指揮者も心臓の中にいますので、同様に酸素不足になっているのです。
あまりにも指揮がうまくいかないと、心臓がポンプとして機能しなくなり、頭のてっぺんまで血液が届かなくなってしまうかもしれません。
そうなると今度は脳みそが酸欠になってしまい、めまいや気が遠くなる、ということも起こり得ります。
不整脈は心臓がピンチに陥っている証拠。命に関わりますのでご注意ください。
胸痛・狭心症(冠動脈疾患)
心臓に栄養や酸素を送る冠動脈。そこに問題があって心臓に血液が届かなくなり、心臓が悲鳴を上げることを冠動脈疾患と言い、狭心症や心筋梗塞が含まれます。
心筋梗塞というと、皆さん怖いイメージがあるでしょう。梗塞とは、血管の管が詰まってしまい、それ以上先に血液が流れなくなってしまうこと。
その結果、血液の酸素を必要としている身体の組織が酸素不足で死んでしまうことを意味します。
心筋梗塞の場合は、心臓に酸素を送る冠動脈が詰まってしまい、心臓の筋肉(心筋)が死んでしまうこと。その結果、突然死も起こってしまうということです。
その一歩手前が狭心症。酸欠になって悲鳴を上げる(それが胸痛として現れます)けれど、なんとか酸素が届くので悲鳴はすぐに治まります。もちろん心筋は生きたままです。
一般的には血管が動脈硬化を起こして詰まりかけた結果起こるものなのですが、その原理は心臓の酸素不足。
そして、ミノキシジルは血管が詰まっているわけではないけれど、同様に心臓を酸素不足にさせる副作用があり、その結果、同様に胸痛が現れるのです。
といっても、実際に詰まっているわけではないので、それだけで完全に詰まる(心筋梗塞)ことはありません。
しかしお話ししたように、心臓が悲鳴を上げる理由は心臓に酸素を届ける冠動脈が伸びっぱなしになり、そこに血液が溜まるから。
あまりにも溜まりすぎると血管という名のホースが耐えられなくなり、破裂する…これが詰まっていないのにミノキシジルが心筋梗塞を起こす仕組みと言われています。
瞼の腫れや目のかすみ、浮腫み、体重増加
朝起きると顔の浮腫みが酷い…なんてことを経験した方は多いと思います。
ミノキシジルで起こりうる多くの副作用の中でも、顔の浮腫みは特に出やすく、わかりやすい副作用の一つです。
身体の中でも目の腫れ(瞼の浮腫み)がわかりやすく、びっくりする方も多いと思います。
あまりにも浮腫みが強いと、目がかすんでしまうこともあるかもしれません。
浮腫みの原因も心臓に負担がかかっているから。
ポンプがうまく働かないので、体の中の水の流れが滞ってしまうのです。
その結果体に水が溜まって浮腫んでしまう、ということになります。
あまりにも水がたまりすぎると、体重が増えた、という形で気が付くことになるかもしれません。
頭痛
今までの副作用は、冠動脈が拡張した結果心臓が酸欠を起こしてしまった結果です。
しかし、伸びっぱなしになって困る血管はほかにもあります。
その一つが脳の血管です。
片頭痛をお持ちの方は周りにも多いと思います。心臓のドクドクに合わせて頭もドクドク、ズキズキと痛む…これが片頭痛です。
気圧に左右されると言われるのは、気圧もやはり血管の伸び縮みを左右するから。脳の血管が拡張してパンパンになった結果、頭痛が起こるのです。
さて、ミノキシジルを飲むと、脳の血管まで伸びてしまい、その結果、頭痛が起こるというわけです。もともと片頭痛をお持ちの方は、顕著にそれが現れてしまいます。
外用薬なら15%の高濃度でも頭皮がかぶれるくらい
ミノタブといったミノキシジルを飲むと怖いことが起こるかもしれないのですね。
では、塗った場合はどうでしょうか。
ミノキシジルの塗り薬(リアップなど塗りミノと呼ばれます)にも同様に循環器や頭痛に気を付けるよう注意喚起が書かれています。
しかし、塗り薬が身体の中の血に混じる量はとても少なく、毎日全身に塗りたくるような行為をしない限りはそのような問題は生じにくいです。
実際に皮膚科の薬でも、全身に作用すると危険な薬も塗り薬としては安全に使用されています。
一方で塗り薬にもどうしても起こってしまう可能性のある副作用があります。
それは、「薬を塗ることでかぶれてしまう」ということです。
こちらは皮膚科で出す薬であっても、どうしても起こってしまう可能性のある副作用(治療はステロイドとなりますので、混ぜ物なしのステロイドでは起こらないでしょう)。
こちらも濃度によって左右されますので、市販のミノキシジル発毛剤(リアップやメディカルミノキ5など塗りミノ)は5%と低濃度ですので、頭皮のかぶれは起こりにくいでしょう。
一方でAGA専門クリニックではもっと濃度の高いミノキシジル外用薬を処方してくれるかもしれません。5%よりはかぶれやすいかもしれませんが、セルフコントロールしつつ、発毛効果を確認してください。
15%と実に3倍の濃度を持つミノキシジル発毛剤を用意しているクリニックもありますが、これでもミノタブといった飲み薬に比べると副作用の心配は少ないと考えます。
一緒に飲んではいけない薬は、イブプロフェンなどの頭痛薬や痛み止め
新しい飲み薬を始めるとなると、気にしなければならないのは薬の飲み合わせ(併用禁忌と言います)。
注意しなくてはならないのは、イブプロフェンなどの頭痛薬です。
ミノキシジルの飲み薬はもともと血圧を下げる薬(血圧降下剤)という説明は覚えていらっしゃいますか?
ファイザー社が「ロテニン」という名前で売り出していましたが、その説明書には「ロテニンとイブプロフェンを一緒に飲むと大変なことになる」と注意喚起がされています。
お話ししたようにミノキシジルは血管を拡張させるため効果も副作用も出る薬。一方でイブプロフェンなどの痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬、通称NSAIDsと呼びます)もやはり血管を緩める作用が。
それによって副作用として血圧がより下がってしまうということになることが危惧されています。血圧が低すぎるとめまいやふらつきが出て、転んだり運転中に事故を起こしたりというリスクが上がってしまうのです。
また、ミノタブといったミノキシジルを飲む副作用は、血管が緩みすぎた結果臓器が飢餓状態になること。その可能性が上がってしまうということにもなります。
最悪な話をすると、両方の効果で毛細血管がパンパンになった結果、破裂する可能性も。これが脳に起こると脳出血(脳溢血)となってしまう可能性もあります。
逆に片頭痛の特効薬であるトリプタン(スマトリプタンなど)も併用禁忌です。
こちらは血管を収縮させることで片頭痛の症状を防ぐ薬ですので、血管を伸ばしたり縮めたりする薬(血圧の薬も同様です)とミノキシジルの飲み薬は相性が悪いと考えてください。
未成年者にミノキシジルは注意が必要
薄毛は大人のもの、と考えがちですが、お子さんでも同様に悩んでいる方はいらっしゃいます。そのような方にミノタブといったミノキシジル育毛剤は使ってもいいのでしょうか。
高血圧の反対は低血圧、お子さんの場合は低血圧が心配
くどいようですが、ミノキシジルの飲み薬はもともと高血圧に対する血圧降下剤です。
高血圧は加齢や生活習慣も問題で起こる動脈硬化が原因のほとんど。
一方でお子さんの場合、高血圧をお持ちの方は少なく、低血圧で校長先生の話を聞いているときなどに倒れてしまう方も多いと思います。
その可能性が上がってしまうミノキシジル。倒れた時に頭などを打ってしまうと大変です。
ですので、ミノタブといったミノキシジルの飲み薬は未成年者が飲むことは推奨されません。
外用薬も未成年者には使用禁止と書かれています
では、リアップのような「塗りミノ」はどうでしょうか。
大正製薬のリアップにも「未成年者は経験がないため、使用しないでください」と書かれています。
医薬品というものは、使って大丈夫かの臨床試験が必ず行われているのです。
そして、未成年者に対するミノキシジル外用薬の臨床試験は国内・国外共に行われていないのが現状なので、どんな作用や効果があって、どんな副作用があるか誰にもわかりません。
ですから、「使用してもどんなことが起こるかわからないので、医薬品として使わないでください」とされています。
実際考えられることは、飲み薬はもちろんやめたほうがいいですが、塗り薬の場合は体の中に入っていくことは考えにくいので、塗り薬として使う分には重篤な副作用は起こりにくいでしょう。
皮膚科でも、子供にも大人用の塗り薬を使うことはよくあります。
とはいえ、使わないよう言われていることは事実です。ご家族でお考えになっていただければと思います。
ミノキシジルは循環器に作用 循環器内科のバックアップを
さて、ミノキシジルに関しては散々脅してしまいました。
それでもミノタブといったミノキシジルを使う方が多いということは、それほどまでに薄毛に悩んでいる方が多いということ。
人によっては薄毛のせいで社交性が減ってしまい、最悪の場合うつ病になってしまう方も。
ミノキシジルの飲み薬は確かに危険ですが、ここまで当記事を読んでくださった方はどのようなことに気を付ければいいかがわかったはずです。
大切なことは循環器の問題 循環器内科に相談しましょう
ミノキシジルの副作用は、血管や心臓といった循環器の問題がほとんどであることはお話しいたしました。餅は餅屋、専門家である循環器内科の医者に相談することが一番と考えます。
もちろん、市販で売っているような塗り薬ではそのような心配はありませんが、飲み薬を飲んでいらっしゃる場合は循環器内科で大丈夫かどうかの確認をすることがお勧めです。
特に副作用が起こってしまった場合は、必ずと言っていいほど循環器の確認をしてください。そこで問題がなければ、ミノキシジルの内服も問題ないかもしれません。
まとめ
- ミノキシジルの副作用は循環器の問題
- 塗り薬は頭皮のかぶれが起こるかもしれない
- 血管に作用する薬は飲み合わせが問題
- 未成年者には注意が必要
- 大切なのは循環器のバックアップ