知っているようで知らない水虫。
その正体は「白癬菌」(トリコフィトン属の真菌)が、ケラチンという身体の角質に住み着いてしまい起こる病気です。
正しく治療しないと大変、爪に住み着いてしまいます。
最近は飲み薬や塗り薬で治るようになりましたが、それでも大変です。
爪白癬になると、分厚くなって切れなくなったり、靴が履けなくなったり、歩くことに支障が出ることも。
なにより、放置すると他人にうつしてしまいます。
水虫になってしまった方も、そうでない方も、皆様に爪白癬のことを知って、広めていただけたら幸いです。
この記事のポイント
- 水虫は正しい方法で治療しましょう。
- 検査の際は薬をしばらく塗らないように。
- だんだんきれいになりますよ、諦めないで。
この記事を書いた医師
名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。
本文中の上付き数字1)2)3)は論文引用箇所で文末に論文名を記載しています
水虫(白癬菌)があなたに忍び寄る
足がジュクジュクする、皮が剥ける、やたらカサつく…
また水虫かぁ、と嘆く。
どこからもらってくるんだろうなあ…
そういえばテレビで水虫の薬を宣伝していたな、使ってみようとドラッグストアに行く。
塗ったらたしかに良くなった!めでたしめでたし…
白癬菌「やれやれ、今回も難を逃れた。ひとまず今は潜んでおこう…」
水虫(白癬)とは、白癬菌という真菌(キノコやカビの仲間)が、皮膚の角質に住み着いてしまうことで起こる病気。
最初は足の皮が剥けたり、水ぶくれになったり弾けたり、逆に皮膚が硬くなったりと、足の皮に症状が出ることが多いです(足白癬)。
しっかり治せばいいのですが、正しい治療を受けないと白癬菌はしつこく足に潜みます。
そして他人や自分の身体にどんどん広がってしまい…果てには爪にまで(爪白癬)。
足から爪へ
また水虫の症状だよ、いつもいつもしつこいなあ。
でもいい薬を手に入れたから、すぐ治しちゃうもんね。
ところで、爪の色がなんだかおかしい気がするのだけど…
白癬菌「外から攻めようにも、どんどん薬で退治されてしまう。そうだ、潜んでいる間に内側から攻めよう。」
爪白癬の症状はさまざまなのですが、最初は爪の先が白く濁る程度です。
次第に爪全体に広がり、厚く、ぼろぼろに。
最終的には、自分では爪切りができなくなってしまうほど、爪が厚く変形してしまいます。
発見
気がついたら、爪がどんどんおかしなことになっている。ボロボロするし、ニッパーでもないと切れないくらい分厚くなった。
水虫もどんどん繰り返すし、医者のところで相談するか…
白癬菌「バレたか!?」
さて、やっとお会いすることができましたね。
お話を聞くに、爪白癬の可能性が高いです。
でも、他の原因で足の皮膚や爪がおかしくなってしまうこともありますよ。
なので、まずは顕微鏡で白癬菌がいるかを調べさせてくださいね。
水虫の薬は塗りましたか?塗ると、表面の白癬菌が見えなくなってしまいます。見えないからと言って、いるにはいるのですが…水虫の薬は可能であれば2週間ほどは塗らないで来てください。
駆逐に至るまで
足も爪も水虫だらけらしい。
誰からうつされたかはわからないけど、どうやら親にも広めてしまったらしいし、しっかり治そう。
飲み薬のほうが効くというのでそうしたら、だんだん爪がもどってきた。
親は飲み薬がきついというから塗り薬を塗っている。効く爪とそうじゃない爪があるけど、少なくとも現状維持にはなるよと言われたからそうしているよう。
それでも塗らないよりはずっと良さそうだ。
白癬菌(へんじがない、ただのしかばねのようだ)
爪白癬の治療は塗り薬と飲み薬がありますよ。
完全に爪を治すには飲み薬のほうが効果は高いので、飲める方は飲み薬をおすすめしております。
抗真菌剤という、白癬菌を殺す薬です。
薬によって飲む期間は違いますが、3-6ヶ月となります。
人によっては肝臓を痛めてしまうので、毎月血液検査が必要です。
飲むことが厳しい方には抗真菌剤の塗り薬が選ばれます。
塗る期間は1年以上、治らなければずっと塗る必要がある人も。
いずれも下からいい爪が生えてくることが目標です。少しずつでわかりにくいので、ぜひビフォーアフターの写真を取ってみてくださいね。
ここからは難しい話
「水虫」は白癬菌(はくせんきん)という、Trichophyton(トリコフィトン)属の真菌(カビやキノコの仲間)です。
ケラチン、つまり角質(皮膚や爪、髪)を溶かす物質(ケラチナーゼ)を持つため角質に侵入し、感染成立となります。
普通のカビと同じように湿気を好むので、蒸れやすい足から侵入することが多いです。
また、湿気を好むので、スポーツジムやバスマットを介して人から人へと広がってしまいます。
逆に言うと、しっかり対策をすればそういったことを減らすことも可能です。
上記のエピソードのように中途半端に水虫の薬を塗ったり放置したりすると、水虫がどんどん内側に入り込んでいき、爪に入り込んでしまいます。
初期症状
爪が白く濁ります。水虫の入り込み方によって型が分かれるのですが、いずれにしても検査や治療は同じですので、皮膚科医に確認させてください。
放置すると
だんだん爪がボロボロに。最終的には爪全体が分厚くなってしまい、爪切りができなくなってしまいます。
爪水虫と紛らわしい、爪が変形する話
爪水虫になぜ検査が必要か、という話に繋がるのですが、同じように爪が濁ったり分厚くなったりする原因はほかにもあります。
それは、圧迫による変形です。
皮膚に「たこ」や「うおのめ」ができるように、爪も強い力を受けつづけると、その力に対抗して硬く、分厚くなってしまいます。
そうなると水虫の薬を使ってもいいことはありません。
なので、検査で白癬菌がいることを確認する必要があるのです。
検査について
爪を擦ったり削ったりして(痛くありません)白癬菌がいると思われる「角質」を顕微鏡で見ます。
そのままだと分厚くて見えないので、KOHという角質を溶かす薬で溶かした後に顕微鏡を。
ただ、爪は皮膚に比べると、白癬菌を見つけにくいです。これは、住み着く場所に偏りがあったり、奥の方に潜んでいたりすることが原因。そのため、一度の検査ではわからないこともあります。
この検査ですが、上記の通り顕微鏡で見ることができるのはあくまで表面の角質だけです。
しかし水虫の薬を使ってしまうと、表面の角質から白癬菌が消えてしまいます(奥には潜んでいますが、検査ではわからなくなってしまうのです)。
そのため、正確な検査をするためには2週間程度水虫の薬をお休みしてください。
治療について
白癬菌は真菌ですので、真菌を殺す薬(抗真菌薬)で治療を行います。
爪の奥深くに入り込んでいるので、治療は外側からよりも内側から行う方が効果が出やすいです。よって、一番の治療法は飲み薬となります。
内蔵が悪かったり薬の飲み合わせが悪かったりして、飲み薬を使うことが厳しい場合は塗り薬による治療です。
ただし、飲み薬に比べると効果は非常に低くなり、きれいな爪を生やすというよりはこれ以上悪化させない、広めないという治療になる方も多くなります。
尚、市販の薬など、医師が処方する薬以外のものは効果がありません。
飲み薬について
なんせカビを殺す薬ですので、当初は副作用として自分の身体も痛めてしまう薬しかなかったのです。しかし改良の末、身体への害がより少ない薬が開発されました。
当院ではテルビナフィン(先発品名 ラミシール)、ネイリン(薬品名 ホスラブコナゾール)という2種類の薬のみ採用しております。
かつて主流であったイトリゾール(薬品名 イトラコナゾール)は飲むタイミングや一緒に飲んではいけない薬など問題が多く、ネイリンが登場してからは当院では使用しておりません。
いずれの薬も肝臓を痛める可能性が稀にありますので、毎月血液検査が必要です。
テルビナフィンは後発品(ジェネリック)があるため、薬の値段が安い(1ヶ月で1000円くらい)のが特徴。ただし、治療のためには6ヶ月間飲む必要があります。
ネイリンは一番新しい薬ですので、ジェネリックがありません。そのため薬の値段は高いです。(1ヶ月で6000円くらい)そのかわり、治療は3ヶ月で終わります。
どちらにせよ塗り薬よりは圧倒的に効果が高いので、いかに続けられるかが大切です。
塗り薬について
塗り薬ですと、飲み薬のように内蔵を痛める可能性は減ります。かわりに皮膚を痛める(かぶれる)可能性が。
かつては塗ったところにしか効き目が出ませんでしたが、最近は爪の内側に浸透する塗り薬が主流です。
しかし、保険の都合上ずっと出すことができないので、治らない場合は定期的に薬を変更する必要があります。
当院ではクレナフィン(薬品名 エフィナコナゾール)およびルコナック(薬品名 ルリコナゾール)を採用しております。また、保険の都合上ゼフナート(薬品名 リラナフタート)を使用することも。
治療効果について
白癬菌に侵された爪はもう元にはもどりません。そのかわり、新しく生えてくる爪がきれいに生えてくるようになります。よって、きれいな爪を取り戻すためには爪が生え変わる必要が。
そのため、そもそも爪が伸びにくい(圧迫されていたり、年齢を重ねていたりすると伸びにくくなります)と、白癬菌自体はいなくなっても、見た目は変わりにくくなります。
治療するメリット
とにかく大切なことは、これ以上白癬菌を広げないことです。治療することによって、最低限でもそれを達成することができます。
もちろん目標は爪をきれいにすることです。
爪がボロボロになったり厚くなると、そこからほかの菌が入って感染症の原因になりますし、靴が履きにくくなる・歩きにくくなるといった歩くことに問題が起こることもあります。
これらの話を踏まえて少しでもドキッとした方は、是非皮膚科を受診してくださいね。
論文を使ったもっと大真面目な話
Guptaらの多施設共同研究[1]によると、異常な爪の5-6割が爪白癬であったとされます。
つまり、残りの4割は爪白癬ではありませんので、検査が必要となるのです。
Mikailovらの研究[2]によると、塗り薬の治療をする前にしっかり検査をすることで余計な治療をせずに済むため、患者さんにコスパがいいとされています(すごい雑誌に載っているというのが、アメリカらしいですね)。
ちなみに、塗り薬をだらだら続けるより飲み薬で一気に治したほうがコスパがいいよ、とも。
Roujeauらの研究[3]では、糖尿病やがん、免疫を抑える薬を使っているなど免疫が落ちている人で感染症のリスクが高い人は特に治療すべきと結論づけられています。
またElewskiの調査[4]によると、爪白癬患者さんの92%がなんらかの困ったことがあったといい、44%の患者さんがコンプレックスに思っていてます。
そして、41%の方は痛みや不快感を覚えているとのことでした(だから治療しているということですね)。
Melissa A Nicklesらのシステマティックレビュー(いろんな研究をさらに研究)[5]でも、爪白癬に対する代替療法(民間療法、ハーブやオイル)は見つかっておらず、治療には皮膚科医の診療が不可欠とされています。
真菌を殺す薬はいろんな種類があるのですが、2017年のコクランレビュー(とてもすごいまとめサイト)[6]でのイチオシ飲み薬はテルビナフィンでした。
ただ、最近はテルビナフィンに負けない強い白癬菌も出てきてしまったのです(耐性化)。
そこで日本が開発した新薬(ホスラブコナゾール、その名もネイリン)が出て、今までテルビナフィンが効かなかった人も治ったよ、という報告が出てきています。
ただし日本が開発したばかりなだけあって、まだ国際的なデータは乏しいんです。
まとめ
- 水虫を正しい方法で治療しないと悪化する
- 爪水虫になると日常生活も治療も大変
- 検査する前に薬を使わないで!
- 治療は飲み薬がよし、無理なら塗り薬
参考文献
[1] Gupta AK, Jain HC, Lynde CW, Macdonald P, Cooper EA, Summerbell RC. Prevalence and epidemiology of onychomycosis in patients visiting physicians’ offices: a multicenter Canadian survey of 15,000 patients. J Am Acad Dermatol. 2000 Aug;43(2 Pt 1):244-8.
[2] Anar Mikailov, Jeffrey Cohen, Cara Joyce, Arash Mostaghimi, JAMA Dermatol. 2016 Mar;152(3):276-81.
[3] Jean-Claude Roujeau, Bardur Sigurgeirsson, Hans-Christian Korting, Helmut Kerl, Carle Paul, Dermatology. 2004;209(4):301-7
[4] B E Elewski , The effect of toenail onychomycosis on patient quality of life. Int J Dermatol. 1997 Oct;36(10):754-6.
[5] Melissa A Nickles, Peter A Lio , Julie E Mervak, Complementary and Alternative Therapies for Onychomycosis: A Systematic Review of the Clinical Evidence. Skin Appendage Disord. 2022 Jul;8(4):269-279
[6] Sanne Kreijkamp-Kaspers, Kate Hawke, Linda Guo, George Kerin, Sally Em Bell-Syer, Parker Magin, Sophie V Bell-Syer, Mieke L van Driel .Oral antifungal medication for toenail onychomycosis. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Jul 14;7(7):CD010031.