知っているようで知らない水虫、実は白癬菌という真菌が足の皮膚に居候しているのです。
じめじめしたところを通じてどんどん周りの人を蝕む白癬菌。巣窟から白癬菌を引っ張り出して、抗真菌薬でやっつけよう。
アゾール系とアリルアミン系の二種類がある抗真菌薬、その秘訣は真菌が増えるのに必要な「エルゴステロール」を「ラノステロール」から作られるのを阻止すること。
実は美容にも関わるスクワレンもキーワードに。不思議な水虫ワールドへようこそ。
この記事を書いた医師
名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。
本文中の上付き数字1)2)3)は論文引用箇所で文末に論文名を記載しています
水虫とは
足がジュクジュクしてきた。水ぶくれになったり弾けたり、それが乾いて皮がむけてきたり‥
これはもしかして水虫ってやつかもしれない。なんかテレビのCMでやってたのと似ている。
…そもそも、水虫って何?
この記事のポイント
水虫とは、正式には白癬と言い、水虫菌と言われる白癬菌(真菌という、カビやきのこの仲間)が皆さんの皮膚の表面を溶かして、そこに居候することで起こる病気です。
カビやきのこの仲間だけあってじめじめした環境を好むため、湿気のある風呂場の床やバスマット、スポーツジムで広がっていきます。
皮膚が水ぶくれになったり弾けたり皮がむけたり…そして放置すると爪が分厚かったりぼろぼろになったり。
市販薬でも治せますが、しっかり検査をして再発防止の治療をするには皮膚科受診を。
顕微鏡の検査で簡単に診断することができます。
注意するべき副作用は皮膚のかぶれのみで、飲み薬で治す場合は肝臓の負担も。
ありふれた病気ですが奥深い、それが水虫。
水虫の原因
全く、水虫ってなんなんだ。虫って名前のくせに菌って言うし、どんどん家族に広がっていくし。おかげで自分の名誉は落ちる一方だ。
まったく、どこで貰ったんだか…よくお風呂のマットとか言うけど、なんでそういうところばかりなのかな。
水虫菌の正体〜じめじめした皮膚の居候〜
水虫(足白癬、あしはくせん)は、トリコフィトン属の真菌(きのこやカビの仲間)が足に住み着くことで起こります。この菌を日本名にすると「白癬菌」です。
顕微鏡で見ると糸のように細く長い形をしているので、真菌の中でも「糸状菌」というグループに入っています(逆に丸く見える真菌を酵母菌と言います。ビールなどのお酒で有名ですね)。
白癬菌の特徴は、ケラチンという皮膚や爪を作る物質を溶かしてしまうこと。皮膚は身体を守るバリア。そこの表面をちょっと溶かして、居候してしまうのです。
主な菌はトリコフィトン・ルブルム(Trichophyton rubrum)とトリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)。
どうして足に住み着いてしまうのか。
誰かが白癬菌付きの足を持っていて、その人がお風呂やスポーツジムの床やマット、スリッパなどを使います。すると足に付いていた白癬菌もまた、マットやスリッパにくっついてしまいます。
それを除菌しないまま次の人が使うと、くっついていた白癬菌がその人の足に付き、居候を開始。こうして、白癬菌が足に住み着き、どんどん広がっていきます。
くっつくと言っても何にでもつくわけではありません(そうでないと病院が水虫だらけになってしまいます)。
白癬菌を始めとした真菌は湿気を好み、生息するもの。だからカビやきのこもジメジメしたところに生えるのですね。
特殊な白癬菌による頭部白癬〜脱毛の原因に〜
トリコフィトン属の一つ、トリコフィトン・トンズランス(Trichophyton tonsurans)は頭に住み着き、髪の毛を作る毛母細胞を侵食します(頭部白癬)。そのため、脱毛の原因に。
トンズランスとは、昔のキリスト教徒の一部がトンスラ(tonsure)といって頭のてっぺんを剃る習慣があり、まるでそのように見えることから命名されました。
こちらの原因は柔道やレスリングといった格闘技に使われるマットに白癬菌が着いてしまうこと。頭が白癬菌付きのマットに当たることで、頭に白癬菌が付着し、住み着いてしまうのです。
格闘技だとどうしても、汗でマットがじめじめしてしまいますからね。
水虫の症状
そういえば、水虫って家族にもうつるんだっけ…あわわわわ。
そういえばなんか足がジュクジュクしてきたって言ってたな。まさかうつした……
どんな症状がでたら、水虫かも、ってなるのかな。
大きく分けて3タイプ〜じゅくじゅくや水ぶくれ、皮むけ〜
足水虫(足白癬、あしはくせん)の原因は白癬菌が足に居候することをお話しました。
ただ居候するだけならいいのですが、皮膚の表面を溶かしてしまうってすごく問題です。そのせいで皮が剥けたり、ぐじゅくじゅしたり、水ぶくれに。
指と指の間にできるものを趾間型足白癬、足の裏にできるものを水疱型足白癬と言います。
そんなことされたら痒いし見た目も良くないし、皮膚のバリア機能が失われてしまうので、更なるバイキン(細菌)が入りやすくなってしまいます(二次感染)。
そうなると今度は足が赤く腫れたり、痛みを持ったりします。それは、足が炎症を起こしたということ。
これは水虫の症状というより、白癬菌の侵入に便乗して皮膚の内側に侵入してきた細菌感染の症状です(蜂窩織炎など)。
特殊な足水虫〜カサカサ、カチカチタイプの水虫〜
足のじゅくじゅくや皮むけだけだと思いがちな水虫ですが、逆に足がかさかさになるケースも(角質増殖型)。
角質増殖型は特に高齢者に多く、水虫の可能性がある人にはかさつきも注意が必要です。
時には皮膚がただれることも~二次感染~
酷いやけどをしたときのように、皮膚がただれてびらんや潰瘍を作ることもあります。
これは先ほどお話しした二次感染(白癬菌の侵入口から別の細菌が侵入する)の症状であることが多いです。
水虫を放置すると爪に症状が〜爪水虫〜
さらに放置すると、白癬菌はどんどん皮膚の内側に入り込んであなたの足を侵食します。そしてとうとう爪の中にまで達してしまい、これを爪白癬(爪水虫)と言います。
最初は爪が白く濁るくらいなのですが、白癬菌の侵食が進むと爪が分厚くなって普通の爪切りでは切れなくなったり、爪がボロボロに。
そうなると今度は靴が入りにくくなったり歩きにくくなったりして、歩く機会がどんどん少なくなり、身体にも悪影響がでてきます。
身体にくっつくと〜見た目に特徴が〜
また、身体の皮膚も蝕むようになり(体部白癬)赤く皮がむけたり痒くなるようになります(いわゆるぜにたむし)。
この赤くなる症状は見た目に特徴があって、丸い輪っかのような形に(環状紅斑)。
これは一般的な湿疹の薬であるステロイドが効かないので、ステロイドを塗っても治らない皮膚の赤みがある場合は体部白癬を考える必要があります。
陰部にくっつくと〜いわゆるいんきんたむし〜
陰部にくっつくと、いわゆるいんきんたむし(陰部白癬)と呼ばれます。陰部はジメジメしていますからね。
この特徴もやはり、皮がむけてくることです。
特にステロイドを塗っている方は要注意。白癬菌はステロイドが大好物。塗っている間に皮がむけるようになったり、ステロイドが効かなくなってきたら陰部白癬を疑います。
身体の別のところに湿疹ができることも~自家感作性皮膚炎、Id反応~
皮膚に白癬菌などの糸状菌が住み着いていると、それに身体の免疫が反応することがあります。
その結果、身体の別の部分に湿疹ができることを「Id反応」(自家感作性皮膚炎)と言い、自分の炎症に対してアレルギー反応を起こしてしまう状態です。
水虫の検査と診断
仕方ない、皮膚科に行くか…皮膚科に行くのは初めてだけど、市販の薬じゃだめだって水虫仲間が言ってたから仕方ない。
皮膚科に行ったら何をされるのだろう。痛いのは嫌だな…それに、検査はどれくらいかかるのだろう。時間がかかると困るな。
水虫の診断に至るまで〜基本は見た目と顕微鏡検査〜
水虫かどうかは、まず見た目で考えます。
足の皮むけ、ジュクジュク、水ぶくれ…水虫っぽいなと思ったら、次に顕微鏡で実際に白癬菌を探すことに。
剥けた皮やジュクジュクした皮を取ったり、水ぶくれを破いたり、カサカサした皮を軽くこすったり(いずれも痛くありません)して、水虫菌付きの皮膚を採取します。
そして採った皮膚を「KOH」(水酸化カリウム、皮膚を溶かす物質です)で溶かして白癬菌を皮膚から引っ張り出し、その後顕微鏡で白癬菌を探すのです。
白癬菌がいたらビンゴ、足白癬の診断となります。
これらの検査にかかる時間は施設によって違いますが、顕微鏡で見るまでは1分くらいです。
すぐ白癬菌が見つかれば検査も早く終わりますが、いそうでいない場合は少々お時間をいただくかもしれません(それでも数分です)。
水虫の薬を塗ると顕微鏡検査ができなくなります
一方で足に水虫の薬を塗っていた場合、白癬菌は足の表面からいなくなってしまいます。
完全にいなくなるのではなくあくまで表面だけなのですが、お話したように水虫の検査は身体の表面にある皮を採って顕微鏡で確認すること。
表面から白癬菌がいなくなると、いくら顕微鏡で探しても白癬菌は見えません。
この場合、2週間ほど薬を塗らないでいると白癬菌は再び皮膚の表面に現れてくるため、もう一度顕微鏡で確認することで白癬菌の診断ができます。
もっとも、その間も水虫の症状が辛いと思いますので、しっかり診断しないうちに状況から「水虫っぽいな」と思ったら薬を出すこともあります。
水虫に似た病気、異汗性湿疹(汗疱)
では、白癬菌が見えなかった場合は何を考えるのでしょう。異汗性湿疹といって、汗がうまく出せなくて身体に残ってしまい、水ぶくれになったり弾けてジュクジュクする病気があります。
こちらも汗のせいで足がじめじめしているので、足白癬と間違えやすいです。
治療はステロイドになるのですが、白癬菌はステロイドが大好き。異汗性湿疹に乗じて皮膚に侵入し、足水虫を合併するということにも。ですから、可能な限り検査をしたいところです。
(写真は指の例ですが、足の裏や指にもできやすいです。)
特殊な検査、真菌培養
顕微鏡がない場合は、培養といって菌を育ててわかりやすくする検査を行うこともあります。
こちらも同様に白癬菌がいそうな場所の皮膚をとるのですが、その場で検査せずに培養室で増やしてから検査することが特徴です。
ただこちらの検査はその場で白癬菌を確認するわけではないので白癬菌が見つかりにくく(感度が低い)、菌を育てるのにも時間がかかる(数日かかります)ためあまり行われません。
そのかわり育った白癬菌をしっかり見ることができるので、ほかのものと見間違えることが少ない(特異度が高い)のが特徴です。
また、どの抗真菌薬が効いてどれだと効かないかを調べることもできます(感受性検査)。
このように菌のいるシャーレに丸く薬を乗せて、薬がどれくらい効いているかを確認します(上は全く効いていません…プラセボ(偽薬)。
ほかの薬の周りには阻止円という円があります。菌が生えるのを防いでいる状態で、薬が効いている証拠です。
水虫の治療(西洋医学の標準的な治療法を紹介)
ご立派に水虫菌だらけの足って言われてしまった。
水虫菌に効く塗り薬を出されたけど、3ヶ月も塗らなきゃいけないらしい。忘れずにすむかなあ。
基本は塗り薬です
足白癬の基本的な治療は塗り薬となります。抗真菌薬(真菌を殺す薬)を塗ることで、白癬菌を殺すのです。
白癬菌を殺す薬はいろいろありますが、テルビナフィン(商品名ラミシール)、アモロルフィン(商品名ペキロン)、ラノコナゾール(商品名アスタット)、ルリコナゾール(商品名ルリコン)が代表的な塗り薬です。
似たような名前が多いですね。大きく分けてアゾール系抗真菌薬(なんとかァゾール)とアリルアミン系抗真菌薬(なんとかフィン)に分けられます。
いずれの薬剤も、白癬菌を含めた真菌の細胞にある「ラノステロール」が「エルゴステロール」という物質に変化することを阻害。
エルゴステロールは真菌が増殖するために必要な物質であるため、真菌はそれ以上増殖することができなくなります。
抗真菌薬にはほかにも種類がありますが、白癬菌にはこの二つの種類の薬剤を使うことが一般的です。
塗り方が肝心〜失敗すると再発します〜
問題となるのは塗り方。お話したように、白癬菌はこっそり足に住み着いています。目に見えないところにも、白癬菌がいる可能性が高いのです。
そのため、じゅくじゅくや皮むけ、水ぶくれがないところにも抗真菌薬を塗る必要があります。また、見た目の症状が良くなってもまだ白癬菌は奥に潜んでいるのです。
3ヶ月は薬を塗り続けて、奥にいる白癬菌も殺さないと再発してしまう可能性があります。
範囲が広いと飲み薬も使います
すべて塗ることは大変なので、全身に白癬菌が広がっている場合は、内服薬(飲み薬)で内側からまとめて白癬菌を殺すこともあります。
代表的な飲み薬はイトラコナゾール(商品名イトリゾール)、テルビナフィン(商品名ラミシール)、ホスラブコナゾール(商品名ネイリン)です。
また、頭部白癬の場合は薬が頭皮の毛根に浸透しにくいため、同様に飲み薬が必要となります。
水虫の治療の副作用
やれやれ、やっと薬が貰えた。別に検査とかしなくても良かったんじゃないのかな?
結局市販の薬を塗るのと変わらないような…
でも薬剤師さんからは副作用に気をつけてって言われたな。医者も、水虫じゃないのに水虫の薬を塗ると良くないから検査するんだよって言われたっけ。
ちょっと恐いな、どうなるんだろう。
塗り薬の副作用〜かぶれはどの塗り薬にもつきもの〜
残念ながら、どんな薬にも副作用はつきものです。
と言っても外用薬(塗り薬)の場合はよほど全身に塗りたくらない限り、身体の中に副作用が出ることはまず考えにくいもの。
むしろ、塗ることによって皮膚がかぶれてしまう(接触性皮膚炎)ことが一番の副作用です。
一般的に塗り薬といえばステロイドが思いつきますが、ステロイドは炎症を抑える薬なのでかぶれを治す作用が。ですから、ステロイドの塗り薬は混ぜものでもしていない限りかぶれは起こりません。
しかし抗真菌薬はそうではないので、かぶれという副作用はどうしても可能性として残ってしまいます。そうなったとしても大丈夫、かぶれない他の薬を使えばいいのです。
飲み薬の副作用は肝臓に来る
一方で飲み薬(内服薬)は全身に届くため、肝臓に負担がかかります。
(薬剤性肝炎)水虫治療に使われる抗真菌薬は肝臓という工場で加工されるので、肝臓が疲れてしまうことが。そのため、副作用が出ないかどうか定期的に血液検査で確認することが望ましいとされています。
仮に肝臓にダメージがあっても大丈夫。薬を飲むことをやめたら、ほぼ肝臓は復活します。飲酒をやめたら肝臓が元気になるのと同じですね。
しっかり血液検査をしていたら、肝臓がちょっと疲れているという段階で気がつくことができるので、重篤なことには至りにくいです。
水虫の予防方法
やっと水虫が治った。病院に行って良かったなあ。家族も無事治ったけど、一度あることは二度あると思うと怖い。水虫って、どうやって防げるの?
じめじめした部分に住み着く陰湿な白癬菌、じめじめを避けよ
水虫になる原因はじめじめした場所に水虫がくっつくから。つまり予防としては
- 湿ったものを他人と素足で共有しない/消毒する
- 足を湿らせない
が基本となります。
湿ったものを素足で共有しない…これは足ふきマットやスリッパを個別に使ったり使った後に消毒したり、白癬菌がいそうな場所を使っても最後に足をきれいにすることが予防に。
仮に白癬菌が足についても、清潔にしていたら取り付くしまもなく離れていきます。
足を湿らせないためにはじめじめしがちな靴を避けること。どうしても革靴や長靴を毎日履かなければならない方は、同じ種類でいいので違う靴を使い分けてください(ローテーション)。
予防的に水虫の薬は塗らないでください~菌の耐性化~
最近はジムに行くときなどに、予防的に抗真菌薬を足に塗る人も多いと聞きます。一見よさそうに見えるこの方法、実はかえって白癬菌を強くしてしまうのです。
白癬菌に限らず、感染症は抗菌剤(抗生物質)にやられっぱなしというわけにはなりません。人間だって、何か困ったことがあったら何とかして対処して、進化や発展を遂げました。白癬菌も同じです。
抗真菌薬という毒を使われても、突然変異などで生き残ることができる菌(耐性菌)が現れてしまうのです。
通常だと抗真菌薬で一網打尽にするので生き残りが増える間もなく鎮火できるのですが、予防的にだらだらと抗生物質を使うと菌もだらだらと生き残ってしまい、どんどん耐性菌が増えてしまいます。
民間人がだらだらと抗生物質を使ってしまいがちなアメリカやインドといった国では、いろいろな種類の耐性菌がどんどん増えています。日本も例外ではありません。
耐性化した白癬菌は対処が大変です。なんせ、治療の要である抗真菌薬が効かなくなってしまうのです。
ですから、予防的に水虫の薬を塗ることはやめてください。
ちなみに消毒薬は抗生物質と違って絨毯爆撃なので、その心配はありません。
水虫の代替療法(市販薬や漢方、ハーブなど)
ん?説明をよく聞いたら、市販の薬でもなんとかなるのでは?実際、ものによっては市販にも同じ薬があるぞ?市販の薬がだめなのは、あくまで塗り方を知らないからなんだよね?
そうしたら、市販の薬でもなんとかなるような…
それに、ドイツ人の友達が言うには、ドイツではオーガニック文化が盛んだからハーブを使うって言ってたなあ。日本で手に入るハーブなのかな。なんかおしゃれ。
市販の薬で治る足水虫
ここで注意したいのが、市販の塗り薬は「混ぜもの」が多いこと。お話したように、塗り薬はどうしてもかぶれという副作用がついて回ります。
そして薬との相性で起こるこの副作用、薬の種類が多ければ多いほど起こりやすいもの。そのため混ぜ薬より、有効成分だけ入った塗り薬のほうが安全です。
テルビナフィンなどが単一成分として販売されています。
水虫の薬以外の治療はどうか〜今のところ、だめです〜
一方、抗真菌薬を使わない治療はどうなのか。
結論から言うと、抗真菌薬を使わない治療は効きません。ドイツなどの国では自然派ブームが起こっているため、民間療法としてさまざまな治療にハーブが好んで使われます(もちろん病院では西洋医学の治療が)。
ドイツのドラッグストアに行くと、さまざまなハーブでできた薬やお茶が売られているのがわかります。しかし残念ながら、たくさんの研究をしているにもかかわらず、水虫に効くハーブはまだ発見されていません。
また、中国では西洋医学と同等に中医学(漢方などを使った医学)が盛んです。こちらも今のところ水虫に効く漢方などの治療は見つかっていないのが現状です。
漢方やハーブ自体が効かないわけではありません〜あるノーベル賞の物語〜
ただ、漢方やハーブそのものが医学的に無意味というわけではありません。漢方による治療は西洋式の研究もどんどん行われていて、実際に日本でも保険適応となり効果を発揮している薬がたくさんあります。
感染症に対しても同じです。
ノーベル賞を受賞した、あのマラリアの特効薬「アルテミシニン」は屠呦呦(トウヨウヨウ)さんが中国でよもぎの一種である薬草「クソニンジン」から作った漢方「チンハオス」(青蒿素)が元となっています。
注意点とまとめ
- 水虫の原因は白癬菌という真菌が皮膚に住み着くこと
- 白癬菌が色々なものにくっつくことで感染がどんどん広がる
- 診断は見た目と顕微鏡検査。水虫の薬は塗らないで。
- 治療のメインは抗真菌薬の塗り薬。副作用はかぶれること。
- 全身酷いときは飲み薬も。肝臓に注意。
- 西洋医学以外の治療法は今のところ効果なし。
論文を交えた難しい話
検査について~顕微鏡検査以外の検査は?~
Levittらの研究[1]によると、KOH による顕微鏡検査の感度(白癬菌を見つけ出す確率)は73.3% (95% CI: 66.3 ~ 79.5%)、一方培養検査の感度41.7% (34. 6 ~ 49.1%)。
顕微鏡検査の方が白癬菌を見逃しにくいと結論づけられました。
一方それぞれの特異度(間違えずに白癬菌だと断定できる確率)は、KOH による顕微鏡検査で42.5% (36.6 ~ 48.6%)であったのに対し、培養検査では77.7% (72.2 ~ 82.5%) と高く出たのです。
そのため、それぞれの検査はお互いの弱点を補いあっているとされています。
ただこれらの検査はいずれも医者を始めとした検査にかかわる人の実力や経験に左右される面が大きいとのことです。
Saunteらの研究[2]で言及されるように、昨今はPCR検査(ポリメラーゼ連鎖反応、遺伝子の一部を増やすことで診断する方法)も行われていますが、お金や機材がかかることから普及していません。
特殊な症状ついて~二次感染とId反応~
Solomonらの研究[3]によると、足の指と指の間に起こる細菌感染症(Toe Web Infection,略してTWI)はほとんどの場合足白癬によって皮膚のバリア機能が失われた足に起こるとされています(真菌の二次感染)。
タバコを吸っていたり、糖尿病がある方は二次感染が特に起こりやすいとのことです。
ChengらはId反応(イド反応)は抗真菌薬の治療前でも治療中でも起こり得るため、治療中に全身に湿疹が出ても抗真菌薬は続けることによって湿疹が治まった例を報告しています[4]。
Veienらの報告[5]では、213人の足白癬患者のうち37人(17%)に手に水ぶくれができるという症状を伴ったId反応を認めました。
いずれにせよ白癬治療中に起こった湿疹ですので薬物アレルギー(薬疹)との区別が重要に。薬疹と間違えて治療を中断すると白癬菌治療に失敗してしまう、とChengらは忠告しています。
診断について~間違えやすい病気~
水虫には3つのタイプがありますが、それぞれ間違えやすい病気があります(鑑別診断)。
指と指の間タイプ(趾間白癬)
- 趾間カンジダ感染症(カンジダという真菌が住み着く病気)
- 異汗性湿疹、汗疱(汗がうまく出せずに手足の汗が出る穴に水ぶくれができる病気)
足の裏水ぶくれタイプ(水疱性白癬)
- 異汗性湿疹、汗疱
- 接触性皮膚炎(いわゆるかぶれ)
- 疥癬(皮膚にヒゼンダニが住み着く病気)
- 掌蹠膿疱症(手のひらや足の裏に膿のような膨れができる病気)
カサカサ、カチカチ足タイプ(過角化型白癬)
- 角化症(ただのかさつき)
- アトピー性皮膚炎(生まれつき皮膚のバリア機能が弱く、外からの刺激に皮膚が過敏に反応してしまい、炎症を起こす病気)
- 慢性湿疹(湿疹をこじらせてガサガサになっていること)
- 尋常性乾癬(皮膚が異常に角化して、皮がむけたりガビガビになる病気)
抗真菌薬と併せて使うとよい薬
El-Goharyらによるコクランレビュー(とても権威的な論文まとめサイト)[6]によると、抗真菌薬と弱いステロイドを併せて使うことでより白癬の症状を軽減させることができる可能性があるとされています。
とてもかゆかったり、炎症が激しい患者さんに使うことが効果的です。
また、過角化症(カサカサ、カチカチ足タイプ)の患者さんの場合はサリチル酸などの皮膚を柔らかくする薬(角質溶解剤)を一緒に使うと効果的とされています。
一方でジュクジュク、水ぶくれタイプの患者さんには水分を取るために「Burow 溶液 (1%酢酸アルミニウムまたは 5% 亜酢酸アルミニウム) 湿潤包帯」を使うと良いかもしれません。
治療失敗の原因の一つは菌の耐性化
治療に失敗する原因の多くは、診断や治療の方法が間違っていることがほとんどですが、白癬菌が使用した抗真菌薬に対して耐性を持っている(効かなくなっている)可能性も。
その中でもGuptaらの研究[7]によると、「スクアレンオキシダーゼ遺伝子の単一点突然変異」によるテルビナフィン耐性が最も多いとされています。
白癬菌治療に使われる抗真菌薬は「ラノステロール」を「エルゴステロール」という真菌が増殖するために必要な物質に変化することを妨げることで真菌を攻撃(抗真菌作用)。
ブテナフィン、テルビナフィンといったアリルアミン系抗真菌薬は、その変化に必要な物質の一つ「スクアレンモノオキシゲナーゼ」という物質の邪魔をすることで効果を発揮します。
つまり、アリルアミン系抗真菌薬はスクアレンモノオキシゲナーゼ阻害薬とも言えるのです。
そのスクアレンモノオキシゲナーゼを作る遺伝子に突然変異が起こった白癬菌は、スクアレンモノオキシゲナーゼ阻害薬の邪魔を受けることがなく無事エルゴステロールを作ることができます。
ほかにも白癬菌の中から抗真菌薬を排除する力がパワーアップ(排出ポンプのアップレギュレーション)したり、ラノステロール-14-αデメチラーゼ遺伝子の変異も報告されています。
そのため、抗真菌薬の治療がうまくいかないときは培養検査をして感受性を調べることも検討の余地があるかもしれません。
余談ですが「なんとかァーゼ」とは酵素の名前です~生物と化学の時間~
「なんとかァーゼ」という物質が世の中には多いのですが、これは酵素の名前。酵素とは何かにくっついて別のものに変化させる物質ですが、くっつき先が「なんとか」に。
スクアレンモノオキシゲナーゼの場合は「スクアレン」にくっついて「2,3-オキシドスクアレン(スクアレンエポキシド)」に変化させます。
「モノオキシゲン」とは「一つ(MONO)の酸素(オキシゲン、元素記号O)」をくっつける(酸化させる)という意味なので「スクアレン」が「オキシド(O,つまりオキシゲンがくっついた。酸化したとも言う)スクアレン」になるのです。
2と3の間にOがくっつくので「2,3-オキシドスクアレン」という名前になります。
言葉だとわかりにくいですが、図で見ると一発でわかるでしょう。
Wikipediaより
同様に「ラノステロール-14-αデメチラーゼ」も「ラノステロール」の「メチル基」を取る(脱メチル化)酵素という意味になります。
この酵素は別名CYP51(チトクロム51)といいますが、チトクロムとは生物の中に存在する酵素を言います。薬を分解するために使われるため、薬関係の時に重要となるキーワードです。)
難しい話ばかりになってしまったので最後にライトな解説を加えますが、「デメチル」の「デ」は「デカフェ」の「デ」です。メチル基やカフェインを取るってことですね。
もっとライトな話を言うと、最初に出てきた「スクアレン」(スクワレン)は美容に敏感な人なら聞いたことがあるかもしれません。人体の皮脂の成分で、サメの肝油やオリーブオイルにも含まれています。
皮膚を柔らかくしたり肌にうるおいをもたらす美容効果があるので、鮫肝油エキスが一躍有名になりました。
スクアラン(スクワラン)はこれに水素をくっつけた油で、化粧品や保湿剤、軟膏、座薬に使われています(戦時中は機械の潤滑剤としても使っていました)。
以上が冒頭のオチでした。ここまで読んだあなたはすごい!
参考文献
[1] Jacob Oren Levitt, Barrie H Levitt, Arash Akhavan, Howard Yanofsky,
The sensitivity and specificity of potassium hydroxide smear and fungal culture relative to clinical assessment in the evaluation of tinea pedis: a pooled analysis
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[2] D M L Saunte et al,J Eur Acad Dermatol Venereol. 2019 Feb;33(2):421-427. doi: 10.1111/jdv.15361. Epub 2018 Dec 13.
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[3] Michal Solomon, Hila Greenbaum, Avner Shemer, Aviv Barzilai, Sharon Baum,
Toe Web Infection: Epidemiology and Risk Factors in a Large Cohort Study
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