遺伝的に男性ホルモンが頭皮に影響するAGA(男性型脱毛症)。
AGAクリニックをはじめさまざまな場所で治療が行われていても、人によっては「効果がない」「意味がない」と感じる人もいるようです。
本当に効果がなかったり意味がないのでしょうか?もしそうだとしたら最初から治療をしない方がいいのか、治療を始めてから「やめどき」を検討する方がいいのかも考えることになりますよね。
そもそも一生やるとは思えないAGA治療の「やめどき」とはどんな時かというお話を、これから考えましょう。
この記事のポイント
- AGA治療の効果は人によって違う
- AGA治療が意味ないと思う理由は治療の機序に原因
- やめどきは治療ができない時と意味ない時に分かれる
- 治療効果がない場合ほかの原因や治療法を考えることも一手
この記事を書いた医師
名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。
本文中の上付き数字1)2)3)は論文引用箇所で文末に論文名を記載しています
AGA治療の効果がない?その理由や原因は
AGA治療に興味を持ったあなた、まずしたことは「AGA治療」で検索ですよね。
すると、「AGA治療 効果ない」「AGA治療 意味ない」のような出鼻をくじかれる言葉も飛び交うのを見、そしてどういう巡り合わせかこのページにたどり着いたことでしょう。
ずばり効果はありません!みたいな極端なことは言いませんので安心してください。
そして皆さんが見た悲しい検索結果もまた、「意味ない効果ない、だからするな!」というネガティブキャンペーンではないと思います、たぶん。ではなぜそのような言葉が出回ってしまうのでしょうか。
AGA治療、効果がない人早い人
どんなことにも言えますが、何かをしても結果は一人ひとり異なります。同じ高級寿司を食べても、お腹いっぱいになるひともいれば物足りないと思う方も。
満足度もそれぞれ、最高です!寿司たまらん!寿司が好きだと叫びたい!という人もいればスシローの方がいいなあ派がいるのも現実。
AGA治療も同じで、効果がないと残念に思う方もいれば聞いてたのより髪の毛生えるの早っ!という場合もあります。
そうなってしまう理由は以下の通りです。
- AGAの進み具合の違い
- 遺伝子の違い
- 生活習慣の違い
- 満足度の違い
- ビフォーアフターを比べていない
AGAの進み具合の違い
世の中のあらゆることに言える話ですが、問題が起こったときに対処することは早ければ早いほど速やかに鎮火できます。火で言うとろうそくの火は吹けば消えますが山火事になると全然消えませんよね。
脱毛も同じで、抜け始めてすぐに治療を始めると髪の毛が寂しくなることは防ぎやすい反面、相当進行した脱毛は治療しても前者に比べて悲しい効果になることもあります。
進みすぎて毛を作る細胞がなくなってしまった場合には「これ以上の進行を食い止める」程度になってしまうことも。それを「効果ない」と感じる方がいるということです。
遺伝子の違い
一卵性双生児かクローン人間でもない限り、遺伝子は一人ひとり異なります。そもそもAGAがあるかどうかも遺伝子の違いということは、AGAの程度も遺伝子の違いがあるということ。
当たり前ながら当院含めて世の中には「治療の効果が目に見えていい感じの写真」ばかり登場しますが、それと比較すると効果ないなあという方は存在することになります。
同じ「男」という遺伝子でも、星野源みたいな普通の日本人だなあという顔もいれば阿部寛のような古代ローマ人顔もいるのと同じ。
二人に仮に「マッチョになるなにか」を使っても、印象はだいぶ変わるということ。AGA治療もそういうことなのです。
生活習慣の違い
AGAは男性ホルモンの中でも一番強い「ジヒドロテストステロン」のせいで起こります1-5)。はい出ました「ホルモン」、よく健康情報系で使われる便利なあれです。
栄養バランスやストレス、睡眠などの影響でホルモンのバランスは容易に乱れるもの。その結果髪の毛の生え具合に差が出て、意味ないと感じる方もいるわけです。
満足度の違い
実はちゃんと効果が出ているのに、足りないというパターン。寿司コースを食べても食べ足りない方と同じ。
寿司の場合は食べ放題に行けばいいですが、髪の毛の場合は植毛でもしない限り無限に生やすということは難しい。
特に見た目は変わらないけれど、AGAの進行は食い止められているという場合は効果ない!と感じやすいと思います。
ビフォーアフターを比べていない
これも満足度の違いにかぶりますが、実は効果が出ているとしてもAGA治療はだんだん効果が出てくるので、気が付かずに効果ないなと感じることがあります。
わっと効果を感じられるくらい見た目が変わる人もいれば微妙な変化となる人も。定期的に写真を撮って比べるといいでしょう。
額とともに後戻り?意味ないAGA治療とは
効果どころか意味すらも否定されてしまう悲しいAGA治療。こちらはどうしてそのような表現が生まれてしまうのでしょうか。考えられるのは以下の通りです。
- AGA体質そのものは変えられない
- 期待と現実のギャップがある
AGA体質そのものは変えられない
男性ホルモンの一つ「ジヒドロテストステロン」(「効果ないと思われる理由」にも少し出番があったアレ)が頭の額やつむじの毛を作る細胞を攻撃して脱毛を引き起こすことがAGA(男性型脱毛)の実態です(6-8。
そして、AGA体質の傾向があるかどうかは遺伝で決まるものがほとんど。
今あるAGA治療薬「フィナステリド」(商品名プロペシア)「デュタステリド」(商品名ザガーロ)は身体の中でジヒドロテストステロンが作られるのを阻止する薬ですが、飲むことをやめたら元通りです。
ギリギリを保っていた額は再び後退を始め、つむじの毛も抜けていきます。
もう一つの治療薬として代表的なミノキシジルも頭皮の血流を増やして髪の毛を作る細胞の力を強めるものです。こちらも一時的なものなので治療をやめると元通りになります。
お化粧をすれば顔が変わったように見えても化粧を落とせば顔はそのまま、根本的に顔を変えたいなら手術して物理的に変えるしかないのです。顔を変えるなら美容整形、毛を生やすには植毛。
植毛はすごく意味がありそうなのに対して一時的に毛が抜けるホルモンを抑えるのは、その場しのぎだから意味がないと思われても仕方ないかもしれません。
期待と現実とのギャップ
AGA治療に興味を持つ頃には、すでに脱毛が進行しているという方が多数です。そこから治療を始めても完全に元通りになるという方は残念ながら多くはありません。
つむじの毛は比較的元に戻りやすい一方で、額の後退はどうしても現状維持となってしまう方が多い傾向にあります。脱毛の進み具合によっても期待通りの結果が得られるかはわかりません。
その結果見た目が変わらないなら意味がないと感じる方もいるということです。
もう一つ期待外れに思われることとしては、効果が出るまで時間がかかるということ。2か月後に結婚式があるから髪の毛を元気にしたい!と思っても、時間が足りません。
治療によって髪の毛がゼロから伸び始める、ということを考えると半年は見積もってほしいものです。そんなに時間がかかるなら意味ない、という意見もあるでしょう。
治療はやめどきがある?治療の経過について
こんなにネガティブなことばかり言われて困惑する人が続出だと思います。それでも多くの人が治療を続けていることは事実。
悪い意見を強調しすぎでは?という前向きなあなたは是非AGA治療を本格的に検討していただきたいです。
そうは言ってもダメな例をいろいろ紹介したからには、自分がそれに該当したらどうしようという不安もつきもの。一般的な治療の経過を元に、もしものときのやめどきを検討しましょう。
一般的なAGAの治療経過
一般的な経過として、治療を始めてからの期間と効果を表にします。これとは別に副作用は全ての時期で出現する可能性があることに注意してください。
どれくらい経過したか | 治療の効果 |
---|---|
開始直後 | なし |
1~4か月 | 脱毛が減る(人によっては初期脱毛) |
5~7か月 | AGAの進行が止まる・毛が増える |
8か月~ | 見た目の変化が明らかに変わる |
12か月~ | 見た目が変わらなくなる(効果が続く) |
ただ、これはあくまで成功例です。人によって効果は異なるので、治療しても見た目が変わらなかったり脱毛が進んでしまう人もいます。
AGA治療のやめどき
以上の経過の中で、どんな時がやめどきかを考えましょう。大きく分けると以下の通りです。
続けられなくなる | お金がない |
時間がない | |
副作用が出た | |
何らかの理由で薬が使えなくなった | |
年齢が安全域を突破した | |
続ける意味がなくなる | 満足できる効果が得られなかった |
AGAが起こっても気にならなくなった |
・続けられなくなる
まず治療を行うために必要なこと「通院」、これができないと治療の継続は困難です。
具体的には通院費や通院に割く時間がなくなると治療を続けることが難しくなり、やめどきを考える時期を考える必要が出ます。
次に治療開始してから真っ先に現れる可能性のあるものが「副作用」です。これが許容できなくなればやめどきとなります。
こればかりはある程度のリスクがある人はわかるものの、起こるかどうかは未知の領域です。続けられるかは医師と相談してください。
副作用以外にも薬を使うことができなくなることもあります。
何らかの病気になった場合、今までは大丈夫とされていた薬が大丈夫でなくなったり、妊活を考えたときなどに今まで問題のなかった副作用が問題となる、などが主な理由です。
この場合は一旦のやめどきはあるものの、条件クリアで治療再開ができるかもしれません。
最後に、長いこと治療を続けた結果、AGA治療をしても安全と考えられている年齢を越えたときもやめどき。治療によって安全域は異なりますが、死ぬ直前まで飲むような場面は想定外ということです。
・続ける意味がなくなる
こちらの方がやめどきとして、より悩ましいもの。絶対続けられないというわけではなく、あくまでやめどきを検討してもいいし続けてもいいという微妙なライン。とはいえおのずと答えが出るものでもあります。
一番ありがちな話としては、せっかくAGA治療を頑張ったのに効果が期待外れだったというものです。
治療の効果は人によってさまざま。薄くなった髪の毛が元に戻ったという人もいればこれ以上AGAが進行するのを食い止めることができたというレベルの人もいます。
中には残念なことに治療を続けていても進行を食い止められない人も。この結果に対して意味がないと考える人はやめどきを考えることになります。
もう一つ、もうAGAが進行してもいいと思った時もやめどき。AGAはあくまで見た目だけの問題ですから、それが気にならなくなったら治療を続ける意味がないということです。
一生治療を続けるという人はあまりいないと思います。
効果がない・効かないときの対処法はある?
では残念なことに効果がないと感じてしまった場合はどうすればいいでしょうか。
もちろん今までの治療はやめどきかもしれませんが、満足できる結果ではないだけで何かしらの効果が出ている(治療をしなかったらもっと脱毛が進んでいたなど)可能性にも注意してください。
その上で考えられる対処法としては以下の通りです。
- 生活習慣を見直す
- ほかの脱毛症が起こっていないか確認する
- 別の治療法を試す
- 治療薬のメーカーを変える
生活習慣を見直す
AGA自体は体質の問題で進行してしまいます。しかし髪の毛を作る細胞そのものが弱ってしまうかどうかは別の話です。
栄養の偏りや不規則な生活習慣は頭皮に悪い影響を及ぼすので、医師と相談して自分なりに出来る改善点を見つけましょう。
ほかの脱毛症が起こっていないか確認する
AGA自体は治療できているのに脱毛が進んでしまう場合は、AGA以外の脱毛症を合併している可能性もあります。
頭皮の炎症が続くと頭皮が弱ってしまい抜け毛の原因になりますし、亜鉛などの栄養が足りていない、甲状腺の機能が低下していることも。
さらに、自己免疫疾患(自分の免疫が自分を攻撃してしまう病気)によって自分の免疫が頭皮を攻撃しているといったことが脱毛の原因に。皮膚科を受診して確認することでそれらを調べることができます。
別の治療法を試す
AGAの治療法は一つではありません、別の治療法を試すことも一つの手です。
例え同じようにAGAの原因になるジヒドロテストステロンを減らす治療だとしても、フィナステリド(プロペシア)とデュタステリド(ザガーロ)の効果は異なるもの(一般的にデュタステリドの方が効果が高い)。
ミノキシジルに関しても濃度を変えることができるし、効くと考えられるもののしっかり確立していない治療法や薬以外の治療法も研究されているので、それらを検討することも可能です。
*当院ではミノキシジルの塗り薬に研究段階の有効成分を混ぜた薬も処方しております。
治療薬のメーカーを変える
どんな薬も認可されている場合は先発品と、有効成分のみが同一であるジェネリック薬品が存在します。ここで注意したいのが、ジェネリックが先発品と同じであるものはあくまで有効成分だけということ。
メーカーによってそのほかの成分は異り、しっかり検品されているかもまちまちです。先発品を出している製薬会社が認めているジェネリック薬品もあるので、メーカーを変えると効果も変わるかもしれません。
まとめ
AGA(男性型脱毛症)治療に対して意味がない・効果がないと考えられる理由は、治療の機序によることが主です。
具体的には、
- フィナステリド・デュタステリドは脱毛を起こすホルモンを作る物質の効果を妨げるもの。
- ミノキシジルは頭皮の血流を増やして、毛を作る細胞へ栄養を届けることで、作られる毛を強くするもの。
- いずれも使っている間に起こる一時的なものなので、治療をやめたらAGAは再び進行する。
- 額の脱毛(M字ハゲ)は再び毛を生やすことは難しく、額の後退を食い止めることが主な治療効果となる。
- どんな治療ももともとの遺伝子や体質は変えられない。
ということが理由となります。
治療に満足できない時はやめどきと思う方もいるかもしれませんが、続けたり、診断や治療を見直すことで改善する場合もあります。いずれにしても、医師と相談してください。
患者さんからの口コミ
AGA治療を行っていましたが効果がないと思い、こちらのクリニックに相談しました。今までより高い薬となってしまいましたがフィナステリドをデュタステリドに変えたところ、効果はそれなりに出たと思います。(30代男性)
AGA専門クリニックでフィナステリドとミノキシジルを処方されて使っていたものの抜け毛が続くので皮膚科に相談することになりました。抜け毛の様子がAGAと違うと言われ検査をしたところ亜鉛が足りていないという結果になりました。亜鉛を補充する治療をしたところ、抜け毛が治まりました。(40代男性)
参考文献
1) Adil, Areej, and Marshall Godwin. “The effectiveness of treatments for androgenetic alopecia: a systematic review and meta-analysis.” Journal of the American Academy of Dermatology 77, no. 1 (2017): 136-141.
2) Kelly, Yanna, Aline Blanco, and Antonella Tosti. “Androgenetic alopecia: an update of treatment options.” Drugs 76 (2016): 1349-1364.
3) McElwee, Kevin J., and J. S. Shapiro. “Promising therapies for treating and/or preventing androgenic alopecia.” Skin therapy letter 17, no. 6 (2012): 1-4.
4) Rathnayake, Deepani, and Rodney Sinclair. “Male androgenetic alopecia.” Expert opinion on pharmacotherapy 11, no. 8 (2010): 1295-1304.
5) Varothai, Supenya, and Wilma F. Bergfeld. “Androgenetic alopecia: an evidence-based treatment update.” American journal of clinical dermatology 15 (2014): 217-230.
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7) Blumeyer, Anja, Antonella Tosti, Andrew Messenger, Pascal Reygagne, Veronique Del Marmol, Phyllis I. Spuls, Myrto Trakatelli et al. “Evidence‐based (S3) guideline for the treatment of androgenetic alopecia in women and in men.” JDDG: Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft 9 (2011): S1-S57.
8) Meidan, Victor M., and Elka Touitou. “Treatments for androgenetic alopecia and alopecia areata: current options and future prospects.” Drugs 61 (2001): 53-69.
Q&A(質疑応答集)
- QAGA治療を数ヶ月続けているのに効果がない場合、治療はやめるべきですか?
- QAGA治療をのやめどきはどう決めますか?
- Q治療をしたことがありますが今はしていません。再開は可能ですか?
- QAGA治療をやめると脱毛は悪化しますか?
- Q副作用が出ました。薬をやめるとすぐ消えますか?
- Q治療の効果がない時は他の治療法に変えたほうがいいですか?
- Q治療効果がない場合、AGAでない脱毛症の可能性はありますか?
- Q1年以上続けているのに頭皮の見た目が変わらない場合、治療は意味がないということになりますか?
- QAGA治療の効果が出ない場合の原因はありますか?
- Q治療をやめました。再開すれば元通りになりますか?